16 コンプレックスなんかじゃない
「おじゃましました~」
「ハイハイ、気をつけてね」
私達が声を掛けて玄関へ向うと、おばあちゃんは台所から見送りに来てくれた。
「あら?」
その時おばあちゃんは私達をじっと見つめて首を傾げた。
「カズ君、美紀ちゃんより背が高くなったかしら?」
そう言われて並んでみると、僅かな差ながらカズ君のほうが高かった。
「やっぱり成長期ねぇ」
おばあちゃんは、まるでカズ君も孫の一人のように喜んでいるようだ。
「カズ君はすっかり逞しくなったから、本当に安心して見送れるわ」
「へへ……」
カズ君はおばあちゃんの言葉にとても照れていた。
「カズ君は逞しくなったけど、美紀ちゃんは背が高くてスタイルもいいし可愛いからモデルさんになれるわね」
「え~」
今度は私も照れてしまった。たとえお世辞でもちょっと嬉しい。
「でも胸がないから無理だろ」
やはり見送りに来ていたレイ君の言葉で、和やかな雰囲気が一変に凍りついた。
「さようなら」
私は努めて冷静に玄関を出る。
だけどおばあちゃんは「なんて失礼な事を……」とレイ君の頭を後ろから押さえつけて下げさせ、自分も頭を下げていた。
「あ、また明日」
カズ君は挨拶もそこそこに私を追いかけて来る。
「胸が無い方が素早く動けるんだから」
私は競歩の様な速さで歩く。
「そうなの?」
それに負けずカズ君もついて来る。
「今、早く歩いてるじゃない」
「う、うん」
余計な事を言わないようにしようと思ったのか、カズ君の返事は短い。
別に普段は気にしていないが、せいぜいみんなで着替える時に見る可愛くておしゃれなブラが羨ましいと思う位だ。だけど改めて言われると腹が立つ。
「どおせスポーツブラですよ」
「ス、スポーツブラって?」
「独り言よ。説明させる気?」
「ゴメン」
カズ君は何も悪くないのに謝った。これじゃ完全に八つ当たりだ。
私は徐々に歩くスピードを落としていった。
「大丈夫?」
おずおずとカズ君が私に声を掛けてくる。
「別に」
あぁ、まだトゲがあって自己嫌悪に陥る。
とうとう立ち止まってしまった。
「美紀ちゃん?」
カズ君が慌てたように勢いよく私の前に回り込んだ。ただ暗かったせいか距離感がつかめなかったようで、思った以上にお互いの顔が近い。
「え?」
「あ……」
今まで意識していなかったけど確かにカズ君は背が伸びた。これからもっと伸びて、私を大きく追い越していくだろう。
前から思っていた事だけど、いざ目の当たりにするとやはり寂しかった。
「ゴメン!」
ほんの数秒考えていただけなのだが、私が驚いて固まってしまったと思ったらしい。カズ君はまた謝って飛びのいた。
「本当にそれほど気にしてないの。でも『親しき仲にも礼儀あり』って言葉を教えた方がいいかもね」
そう言って私は微笑んだ。
私が笑ったのでカズ君は安心したらしい。ホッとした顔をしていた。
家に着くとすぐにレイ君から電話があった。
「謝るよ。おばあちゃんが『親しき仲にも礼儀あり』だって」
どうやら私が教えなくて済んだようだ。




