14 カズ君の歌声(1)
地区大会の後、久しぶりの休日にワクワクしながらレイ君の家に行った。カズ君の声が安定してきたので歌の練習をするというのだ。
「思ったより高い声が出て低い音も出るから音域が広がった」
ピアノを使った発声練習の後、レイ君が嬉しそうに呟く。私が聴いても綺麗に響く声は変わらないと思う。
「これでバンドができるね」
カズ君も普段からにこやかな顔が一段と笑顔だ。自分のせいでバンドが出来ない事をずっと気にしていたので、余計に嬉しいのだろう。
「こっちで歌ってみて」
今日は岡田君が来ていないので、レイ君がギターを持ち出してBRAVEが初めて演奏した曲を弾き始める。カズ君はそれに合わせて歌った。
ギターだけなのでいつもと感じは違うがカズ君の歌はやはり良い。タカ兄ちゃんは完璧にコピーした歌い方だったけど、カズ君は自分の歌い方だ。
レイ君がオリジナルのバンドを目指しているのなら、カズ君のボーカルにこだわるのは分かる気がした。
演奏中、レイ君は笑っていた。ドラムの時の鬼気迫るような表情とは大違いだ。
「……ふふふ」
「……あはは」
曲が終わると何故か全員で笑いがこみ上げ、段々と大きくなった笑い声が部屋を包んだ。
「想像以上で思わず笑ったよ」
レイ君がギターの軽くつま弾きながら言った。ギターに合わせたカズ君の歌は初めて聴くけど、確かに想像以上の上手さだった。
「最高に良かったし、楽しかった」
「僕も楽しかったよ」
カズ君は手の甲で額を押さえている。部屋はちょうど良い気温なのに、うっすら汗ばんでいるようだ。
「やっぱりボーカルはカズ君だ」
ギターを弾く手を止めて、レイ君はカズ君に右手を差し出した。
「改めてよろしく」
カズ君は目を丸くして、レイ君の顔と差し出された手を交互に見つめる。でもすぐに笑顔になってレイ君の手を握り返した。
「こちらこそ、よろしく」
その後も数曲歌ったけど、どれもバンドとしてすぐに出来そうだった。
「岡田と坂井に連絡をしてくる。早く合わせたい」
そう言うレイ君の目が輝いている。
レイ君は「ちょっと行ってくる」と言い残して、早速二人に電話をかけにいった。
「あの二人も喜ぶね」
「うん。ずっと楽器だけの練習だったし」
私はあまり顔を出さなかったけど、カズ君は歌わなくても新メンバーの練習にずっと参加していた。
やはり初心者でもレイ君は容赦なかったようだ。
「よく辞めないなって、他人事ながら感心したよ」
その時の事を思い出したようでカズ君は苦笑した。
「でもレイ君は技術も伴ってるからね」
レイ君は安住さんから習ってベースも弾けるようになっていたうえに、安住さんと変わらない腕前らしい。
「楽器に関しては、天才だよね」
私が前半を強調して言うと、カズ君は苦笑いのまま肩をすくませた。
「ずるいよ、口に出さないなんて」
「ノーコメントということで」
実はレイ君、歌はイマイチなのだ。音感は素晴らしいはずなのに歌は首を傾げたくなる。




