09 タカ兄ちゃんの進路
「寮?!」
2月になってタカ兄ちゃん本人から高校に合格した事と、寮に入る事を聞いた。その学校はまだ甲子園出場はしてないが、この数年でかなり力をつけてきた私立高校だ。
「通えないほど遠くないのに」
「野球で入る以上、少しでも野球に使う時間が欲しいんだ」
後で聞いた話だとタカ兄ちゃんはかなり期待されていて、学費の軽減や寮費の免除があったらしい。確かに希望したとはいえ、相当なプレッシャーだろう。
「バンド、続けられなくてゴメン」
タカ兄ちゃんは頭を下げて言った。
「そんな事……」
言わないでよ!
BRAVEを続けてよ!
遠くへ行かないでよ……。
「私じゃなくて、みんなに言って」
一瞬で色々な言葉がよぎったけど、一つも言えなかった。
「カズ君は?」
「一応『おめでとう』とは言ってくれたけど、内定の時はヘソ曲げてたな」
そう言って苦笑した。
「寂しいんだよ、きっと」
私がそう言うと、タカ兄ちゃんは急に笑顔から真面目な顔になった。
「カズの事、頼むね」
「私が?」
「美紀ちゃんはしっかりしてるから」
「そんな事ないよ」
「いや、カズと同い年とは思えない」
小さい頃は私がお姉ちゃんだと思っていたくらいだけど、今は違う。
「ウチと美紀ちゃん達と……」
タカ兄ちゃんは昔を懐かしむように目を細める。
「ずっと四人兄弟のように思ってた。美紀ちゃんはしっかり者の妹で、カズは末っ子だ」
「…………」
「こんな野球バカの兄貴は嫌だろうけど」
「ううん」
四人兄弟で、妹。私自身そう思う事もあったけど、改めて言われるとショックだった。
そのことが頭の中をグルグル回り、それから後の会話はほとんど覚えていない。
自分の部屋に戻ると、机の上に包みを置いた。
中身は板チョコ数枚と『本命チョコ』が一つ。今までも義理チョコをあげてきたけど、今年こそ本命チョコを渡そうと思ったのだ。
散々迷ってようやく決心したはずなのに……渡す前に結果が見えてしまった。
野球の時の真剣な顔。BRAVEのボーカル。お話ししている時の笑顔。どのタカ兄ちゃんも格好よくて好きだった。
バンド活動で少し距離が縮まったと思っていたのに。
妹としてみていた子から告白されてどう思うだろうか。
嬉しい?
迷惑?
それからも考え続けてほとんど眠らず朝を迎えた時、私は結論を出した。
「告白はあきらめた訳だ」
「うん」
2月14日。
大賀さんと一緒に帰る途中、私は打ち明けた。私は『妹みたいな幼馴染み』を選んだ。
「妹って言われて戦意喪失?」
「戦意って……」
大賀さんの大袈裟な言葉に、私は苦笑してしまった。だけど的外れではない。告白して気まずくなる事が怖くなったのだから。
「告白されたら考えが変わるかもよ」
「…………」
諦めた以上無意味な可能性だ。
「まぁ、決めた事ならこれ以上は止めよう。笑って見送ってあげなよ」
そう言って大賀さんは、私の背中を軽く叩いて笑う。
「うん」
私は大賀さんに話して良かった、と思った。




