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明日のうたが聴こえる  作者: 人見くぐい
第三章 中学生編
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09 タカ兄ちゃんの進路

「寮?!」


2月になってタカ兄ちゃん本人から高校に合格した事と、寮に入る事を聞いた。その学校はまだ甲子園出場はしてないが、この数年でかなり力をつけてきた私立高校だ。


「通えないほど遠くないのに」


「野球で入る以上、少しでも野球に使う時間が欲しいんだ」


後で聞いた話だとタカ兄ちゃんはかなり期待されていて、学費の軽減や寮費の免除があったらしい。確かに希望したとはいえ、相当なプレッシャーだろう。


「バンド、続けられなくてゴメン」


タカ兄ちゃんは頭を下げて言った。


「そんな事……」


言わないでよ!


BRAVEを続けてよ!


遠くへ行かないでよ……。


「私じゃなくて、みんなに言って」


一瞬で色々な言葉がよぎったけど、一つも言えなかった。


「カズ君は?」


「一応『おめでとう』とは言ってくれたけど、内定の時はヘソ曲げてたな」


そう言って苦笑した。


「寂しいんだよ、きっと」


私がそう言うと、タカ兄ちゃんは急に笑顔から真面目な顔になった。


「カズの事、頼むね」


「私が?」


「美紀ちゃんはしっかりしてるから」


「そんな事ないよ」


「いや、カズと同い年とは思えない」


小さい頃は私がお姉ちゃんだと思っていたくらいだけど、今は違う。


「ウチと美紀ちゃん達と……」


タカ兄ちゃんは昔を懐かしむように目を細める。


「ずっと四人兄弟のように思ってた。美紀ちゃんはしっかり者の妹で、カズは末っ子だ」


「…………」


「こんな野球バカの兄貴は嫌だろうけど」


「ううん」


四人兄弟で、妹。私自身そう思う事もあったけど、改めて言われるとショックだった。


そのことが頭の中をグルグル回り、それから後の会話はほとんど覚えていない。




自分の部屋に戻ると、机の上に包みを置いた。


中身は板チョコ数枚と『本命チョコ』が一つ。今までも義理チョコをあげてきたけど、今年こそ本命チョコを渡そうと思ったのだ。


散々迷ってようやく決心したはずなのに……渡す前に結果が見えてしまった。


野球の時の真剣な顔。BRAVEのボーカル。お話ししている時の笑顔。どのタカ兄ちゃんも格好よくて好きだった。


バンド活動で少し距離が縮まったと思っていたのに。


妹としてみていた子から告白されてどう思うだろうか。


嬉しい?


迷惑?


それからも考え続けてほとんど眠らず朝を迎えた時、私は結論を出した。




「告白はあきらめた訳だ」


「うん」


2月14日。


大賀(おおか)さんと一緒に帰る途中、私は打ち明けた。私は『妹みたいな幼馴染み』を選んだ。


「妹って言われて戦意喪失?」


「戦意って……」


大賀さんの大袈裟な言葉に、私は苦笑してしまった。だけど的外れではない。告白して気まずくなる事が怖くなったのだから。


「告白されたら考えが変わるかもよ」


「…………」


諦めた以上無意味な可能性だ。


「まぁ、決めた事ならこれ以上は止めよう。笑って見送ってあげなよ」


そう言って大賀さんは、私の背中を軽く叩いて笑う。


「うん」


私は大賀さんに話して良かった、と思った。

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