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明日のうたが聴こえる  作者: 人見くぐい
第三章 中学生編
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10 バレンタインデー

大賀(おおか)さんと別れた後、義理チョコを渡すためにレイ君の家に向かった。お店にいたおばあちゃんに挨拶をしてはなれに行くと、すでにカズ君が来ていた。


「ありがとう」


毎年カズ君はとても嬉しそうに貰ってくれる。


「今年は他に貰ったでしょ?」


「レイ君はね。僕は美紀ちゃんだけ」


「そうなの?」


「本当だよ」


ご丁寧に学生カバンの中を見せてくれた。


「ギターなのに地味だよね」


レイ君が楽譜から目を離さずに口を挟む。


「アハハ、そうだね~」


「も~自分で笑ってどうするの」


「だって本当の事だし、レイ君に言われたら納得しちゃうよ」


カズ君が部屋の片隅を指差すと、チョコがデパートの紙袋一杯に入って置かれていた。


「今年こそ私のチョコはいらないよね」


「袋には若干の余裕がございます」


レイ君は楽譜から目を上げ、私に手を差し出した。


「ハイ、どうぞ」


私は少し乱暴に渡したけど、レイ君は「どうも」と言って受け取り、そのまま包み紙を破いて口に入れた。


「もう食べるの? ほかに美味しそうなのがあるのに」


「結局これが一番美味いんだよね。馴染みがあって」


「じゃあ僕も……」


「あ、ちょっと待って」


レイ君はチョコを食べようとしたカズ君を止め、部屋を出て行く。そしてすぐ大事そうに両手で箱を持って帰ってきた。


「僕から」


箱の中には今まで見た事がない綺麗で豪華なチョコレートケーキが入っていた。


「僕に?」


カズ君は明らかに動揺している。


「そう」


レイ君はニッコリ笑う。その笑顔は、そこら辺の女の子よりずっと可愛かった。


「受け取ってくれる?」


「そ、その……」


カズ君はちょっと涙目だ。


「おばあちゃんからでしょ」


面白かったけど私は見かねて口を出した。


「知ってた?」


「うん。聞いてた」


「チェッ、なーんだ」


可愛い笑顔は途端に素の顔に戻った。


「おばあちゃんからね」


カズ君は心底ホッとした様子だ。


しかし、あの笑顔は反則だろう。演技も真に迫っていたし。


もっとも演技じゃなければレイ君の将来が心配だけど。


「この前新しい先生へご挨拶に行くのにデパートに行って、その時に見つけたんだ」


「じゃあ、今日もわざわざデパートまで?」


デパートへは電車で1時間もかかる。


「別に気にしなくていいよ。本人が喜んで買いに行ったんだから」


しかし私の分も用意してくれてあった。おばあちゃんはバレンタインの意味、分かってるのかな?


「新しい先生はいつから?」


「来月」


今回のコンクールも金賞だったレイ君は更に良いレッスンを受る為、また先生が変わるのだという。


「もっと練習が厳しくなるんじゃない?」


「さあ、どうだろう」


レイ君にとっては何て事ないらしい。


「バンドは出来るの?」


「やるよ」


「もちろん!」


カズ君も即答した。


「人が集まればだけど」


あの二人が卒業すれば、残るのは二人になってしまう。だけどレイ君は心配してないようだ。


「希望者が増えたから、去年よりかマシだよ」


「見つかるといいね」


「見つけるさ」


ピアノよりやる気を感じた。

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