20 新しい音楽(2)
レイ君は今回のコンクールでも金賞をもらった。
1年生からいくつものコンクールに出場し続け、その全てを入賞しているのは本当にすごいことだ。ピアニストという目標に向かって、確実にすすんでいる。
しかし今回は入賞よりも「これでドラムが出来る」と喜んでいた。
「ピアノの先生に申し訳ない気がしてきた」
それを聞いてときにレイ君へそう言ってしまった。
「どうして?」
「ピアノ以外に夢中になるようなこと教えたから」
「なんだ。ピアノはピアノだよ。ちゃんとやってるし」
「もちろん結果を出してるからそれは分かるよ。でも前はそんなことなかった」
笑って聞き流そうとしていたレイ君だったけど、真面目な顔になって私の顔をしばらく見たあと口を開いた。
「ロックを教えてくれたこと、感謝してる」
「え……」
「いつか聴く機会はあったかもしれない。でもあの頃に聴いたのが本当に良かったんだ」
たしか6年生にあがって少ししてからだけど……?
「例えどんなことがあってもピアニストになる、って決心してた。でもいざとなったら……その言葉だけが自分の中に転がってる感覚だった」
「どういうこと?」
「課題をこなして技術を評価されても何も感じないし、ピアノを弾いても何の感情も沸かなくなった。そんなのただの自動演奏機だ」
私は最後の言葉に目を見張る。
いざ、というのはお母さんが亡くなったことだろう。そう口にしなかったのは決して治る傷ではないから。いくらレイ君自身がピアノを好きでも、支えになっていたのはやっぱりお母さんだったのだ。
「だけどやめる勇気もなくただ弾き続けていた時だった、ロックを聴いたのは」
「……そう」
「音楽を聴いて久し振りに感動した。音楽はやっぱり面白いって思い出したんだ。だから……ピアノももう一度向き合えたよ」
軽い気持ちでロックを聴かせたのに、それほど思い悩んでいたのを解消出来るきっかけになってたとは思わなかった。
「だからドラムも一生懸命なんだね」
「基本の楽器はピアノだけど、ドラムやギターも僕の音楽をつくる一つだから」
レイ君の真面目だった表情に微笑みが浮かんだ。
「それと一緒に演奏してくれる人がいるのも良いのかな」
「カズ君もすっかりハマっちゃったから」
まだ来てないけど、今日も一緒に演奏する約束だ。
「家で聴いてたら、タカ兄ちゃんもハマったそうだよ」
「へ、へぇ~」
突然タカ兄ちゃんの名前が出てきたので、少し動揺してしまった。
「…………」
レイ君は一瞬私の目をのぞき込んだけど、すぐに自然な感じに戻す。
「ミキちゃんが心配するから、ピアノを練習しようっと」
レイ君はそう言ってドラムからピアノへ移動した。
「も~分かったから」
もちろん冗談で、ピアノに向かうと練習曲じゃなく自分の好きな曲を弾き始めた。
レイ君が自分から深い気持ちを話すのは珍しい。よほど苦しい思いをしていたのか……それが和らぐなら教えて良かったな、と思った。




