仕方ないですね
…どういうこと!?
アンネがドシーに変化していた…!?
「な、何でアンネがここに…?」
あまりの驚愕さに動揺が隠せない。
「…ドシーの仕業ですね?」
オーリュウが右手で頭を抱えながら、アンネに訊ねた。
するとアンネが力強く首を左右に振る。
「…違うんです。私がドシーさんにお願いしたんです…だから、これは私の責任でドシーさんは悪くありません」
「…例えそうであっても、ドシーにも責任があります。まったく…あの子は自分の立場を全くわきまえていない…」
オーリュウが大きなため息をついた。
「アンネ…ここがどういう場所か分かってる?魔界だよ?人間が安易な気持ちで踏み入れていいところではないんだ…下手したら命にかかわる恐れがある」
私はアンネに近づき、アンネの肩に手を置きながら、そう訴えかけた。
すると、アンネがビクッとした表情ですぐに涙目になる。
その表情に思わずウッとなってしまう。
「…ごめんなさい。食堂で今回のことをドシーさんから聞いた時、またエメさんがタオカモイから離れてしまうと思うと居ても立っても居られない気持ちになって…そしたらドシーさんが代わってあげようか?って言ってくれたんです…だから、お願いしました。本当にごめんなさい…」
アンネの目から涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
「あの馬鹿…あれほど、他言するなと言っておいたのに…それどころかこんな騒動まで引き起こすとは…」
オーリュウが呆れと怒りが入り混じった表情を見せる。
「すみませんエメさん。ドシーがまさかこんな馬鹿なことを仕出かすとは夢にも思いませんでした…全て私の責任です」
オーリュウが私に頭を下げて、謝る。
「…頭を上げて下さい。アンネの行動に気がつけなかった私にも責任があります。何度もおかしいところはあったのに関わらず、私はその可能性を考えようとしませんでした…」
そうだ…
明らかに初見のドシーと教会を出る時からのドシーが別人だった。
薄っすらとその違和感に気づきながらも、深く考えなかったのは私の汚点だ。
「エメさんは悪くありません!全て私が悪いんです!今回こそはどうしてもエメさんについて行きたかったんです!」
アンネが私とオーリュウに何度も頭を下げながら謝る。
「…迷惑かけるつもりはなかったんです。ただ、エメさんと一緒にいたかった…本当にごめんなさい」
アンネの言葉に複雑な気持ちになる。
推しからのそんな言葉は素直に嬉しい…だけど、そんな状況ではない…
「…すぐに人間界に戻ります」
と簡単にそう言ったアンネの言葉を聞いた私とオーリュウは同時に首を横に振った。
「…それは出来ないんだよアンネ。魔界のルールで人間が魔界に踏み入った時は許可を得てからでないと出られないんだ。もし、その許可を得ずに人間界に戻れば魔界の掟によって、魔界に連れ戻されて刑に処されてしまう。それに許可を得るには最低でも数週間は掛かる…下手したら一ヶ月以上は人間界に帰れないんだよ…」
私の説明にアンネの表情が固まる。
「…で、でも、魔王の幹部であるオーリュウ様なら、すぐに許可を得られるのではないんですか?」
アンネがオーリュウの方に視線を向けた。
「…私の力でもそのルールだけは覆せないんです。魔界の統括本部によって厳重に管理されているので…」
オーリュウが申し訳なさそうに答える。
「…そうだったんですね。そうとは知らずに私は安易な行動を…」
アンネの目に再び涙が浮かぶ。
「…仕方がないですね。アンネさんをこのまま連れて行くしかありません。出来るだけ早く申請して人間界に戻れるよう手配は致します」
オーリュウの言葉に私は仕方なく頷く。
現状はそれしかない。
「…アンネ。魔界にいる間はくれぐれも私から離れないで…例えトイレに行く時であっても勝手に離れてはいけないよ?」
アンネに視線を向けて、そう釘を刺す。
「はい!絶対にエメさんから離れません!」
「こらっ、アンネっ」
とやや嬉しそうにアンネが言うものだから思わず窘めた。
すると、すぐにアンネがしゅんとした表情を見せる。
…ああ、オーリュウには悪いけど、推しの普段見られないこんなレアな表情を見れるのはかなりテンションが上がる。
「…しかし、ドシーのやつはお説教ですね。いや、お説教じゃ済みませんよ今回は…ドシーが魔界のルールを知らない筈がありませんからね」
オーリュウの怒り込めた表情を見せる。
その表情を見て、少しドシーが可哀想に思えた。
そして、もしこの事実を神父様が知ったら、きっと気絶してしまうだろうなと想像し、神父様が気づかないことを心の奥底で祈った。




