いざ魔界へ
神父様とアンネに見送られながら、私とオーリュウとドシーは町の外へと出た。
なるべく人目を避けたかったので、偽勇者アイリーンのあと夜以外は守門が立たなくなったのは幸いだ。
まあ、例え誰かに見られも、見た目が人間であるオーリュウとドシーを魔族とは思わないだろう。
町から少し離れた場所で周りに人の気配がないことを確認する。
「オーリュウ様、ここなら大丈夫です」
私は足を止めて、オーリュウの方へと振り返った。
オーリュウの少し後ろにドシーの姿もある。
「分かりました。ありがとうございます」
オーリュウはそう言って笑みを浮かべながら、右手を地面の方へと翳した。
すると、彼の右手が向けられていた砂路がポワッと紫色に光り出す。
オーリュウが作り出した魔法陣だ。
そんなに大きくはないが、三人分は充分に立てる大きさである。
「さあ、エメさんも魔法陣の中へ」
オーリュウが魔法陣の中へと足を踏み入れたあと、私にそう言って、スッと手を差し伸べた。
私はその手を取って、魔法陣の中へと入る。
人間に扮しているオーリュウの見た目はイケおじなので手に触れた瞬間、少しドキッとしてしまう。
この容姿でこの気遣いは反則だ。
更に声も良いときた…
とオーリュウに数秒見惚れてしまっていると、後ろから割と強めに押されて思わずよろめきかける。
…何だ?
すぐに後ろを見ると、ドシーが私を押して無理矢理に魔法陣の中に入ってきたのだ。
「ドシー!何をするんですか?…大丈夫ですかエメさん?」
ドシーの横暴にオーリュウが少し声を荒げた。
「…はい、大丈夫です」
苦笑いを浮かべてそう答える。
「…ごめんなさい」
ドシーが呟くように私に謝ったので、私より背の高いドシーを見上げるとドシーは不満げな表情を浮かべていた。
謝るも、何やら納得いかない様子だ。
…私が何かした?
もしかして、嫌われてる?
教会ではそんな風には見えなかっただけに、実に不可解だ。
「さあ、行きますよ」
オーリュウがそう言った瞬間、景色ががらりと変わった。
見渡す限り木々に覆われた場所…インナリィ王国の魔の森だ。
魔界の入り口があるため、そのような名前がついたとか…
魔界の入り口と言っても、ちゃんと魔界の入り口というものがある訳ではない。
ただ、この辺一帯が時空の歪みが発生しやすいというだけだ。
その歪みが時間場所共にランダムに発生し、一定時間は出ているがいつ消えるかは分からない。
タイミングよく出る時もあれば、全く出ない時もある。
まあ、歪みが出やすい時期は存在するので、オーリュウがここの歪みを通ってこちらに来たということは、おそらく今はその時期なのだろう。
「さあ、こちらです」
オーリュウが私の方を見てから、ゆっくりと薄暗い森の中を歩き出した。
私は黙って、オーリュウについていく。
そのあとからドシーがついてくるので、また後ろから押されないか少しだけ不安になった。
やがて、オーリュウの足が止まる。
すると、目の前に大きな時空の歪みが発生していた。
大きさ的にはタオカモイの町の入り口の門くらいだろうか?
歪みは様々な色がぐちゃぐちゃになって、まるで踊っているように見える。
この歪みを通れば魔界だ。
「では、私から先に入りますね?」
そう言って、オーリュウが歪みの中へと入っていった。
オーリュウの姿がスッと歪みの中に消える。
このインナリィにある魔の森から魔界に行ったことはないが、時空の歪みを通って魔界に行ったことは幾度もある。
だから、何の躊躇もない。
オーリュウもそれを知っているから、私と一緒に入らずに先に入ったのだろう。
私もあとを追うように歪みへと歩を進めた。
いざ魔界へ…!
とその時、修道服の裾をギュッと掴まれた。
ドシーだ。
ドシーが何も言わず、私の裾を掴んでいた。
「…どうしました?」
思わず訊ねる。
「…一緒に入ってください」
ドシーが目を合わせずに私に言った。
…なんだなんだ?
まあ、いいかと笑顔で頷いて、私はドシーと共に並んで時空の歪みへと入っていった。




