オーリュウ様
私に来訪者ということで、私を迎えにきた神父様と一緒に教会へと戻ってくる。
アンネは引き続き仕事をしに行くようにと神父様に言われたが、首を縦には振らずについてきた。
神父様の困った表情にほんの少し心中で面白がったことは内緒だ。
…とはいえ、今は正直それどころじゃない。
ロザリオが揺れるだけの者が私を訪ねてきた…
目的はなんだ?
見た目は人だったと神父様はおっしゃっていた。
なら、その魔族は人の姿にわざわざなって、騒ぎが起きないように配慮したことになる。
それに、ロザリオが反応するも、町の中に殺気は全く感じられない。
色々と思考を巡らせながら、私は教会の廊下を神父様のあとについて、アンネと共に歩いていた。
「客間でお待たせしています。エメさんだけの方がよろしいですか?」
神父様が少しだけ後ろを見ながら、私に訊ねた。
「…はい。相手の事情が分からない以上、私だけの方がいいと思います」
「分かりました。では、私は部屋の外でお待ちしています。何か事情が分かりましたら、すぐに知らせて下さい」
神父様がそう私に言ったあとで、すぐに立ち止まった。
客間の前についたのだ。
自ずと気を引き締める。
私は神父様を一瞥して、頷く。
神父様も頷いて私に応えた。
扉のノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開く。
私に続いて、しれっと中に入ろうとしたアンネを神父様が引き止める。
「アンネさんは駄目です」
神父様に言われて、アンネが不満そうな表情を浮かべた。
その表情を見て、すぐに扉を閉める。
そして、来訪者が座るソファへと視線を移す。
そこには男性が一人、女性が一人座っていた。
男性は貴族のような格好をしていて、見た目はオッさんと言えるよりは少し若いくらいだ。
しかし、顔が整っているため、オッさんでも決してオッさんには見えないだろう。
まあ、相手は魔族なので、見た目はあまり参考にならない。
続いて、その隣の女性の身なりは少し派手で、男性よりも背が高く、髪の色はピンクで髪の毛がもこもことしていた。
部屋をキョロキョロしていて、なんだか落ち着きがないように思える。
私の視線に気づいた男性がソファからスッと立ち上がった。
「初めましてシスターエメ。突然の来訪、どうかお許し下さい」
そう言って、私に会釈をする。
私も倣って会釈を返した。
…私の名前を知っている?
でも、知らない顔だ。
一体、何者だ…?
そう思っていると、男性がクスッと笑った。
「…そう思われるのも無理はない。得体の知れない相手が急に訊ねてきたら、誰でもそうなります。でも、これだけは言わせて下さい。我々はあなたやこの町に危害を加える者ではありませんよ。それはお約束します」
男性が爽やかにそう語る。
その言葉に私も表情を崩した。
こちらが警戒心を持っていたら、相手も話しづらい筈だ。
「とりあえず、おかけ下さい。話はそれからお聞きします。何か飲み物はいりますか?」
ソファの前に立つ相手にそう訊ねる。
「いえ、お気遣いな…」
「じゃあ、ジュースちょーだい」
男性が遠慮を口にした矢先、隣の女性がそれを妨げた。
すぐに男性が咳払いをして、女性に注意を促すも、女性は聞く耳を持っていない様子だ。
「分かりました。ジュースですね?すぐにご用意しますので、少しお待ち下さい」
私は笑みを浮かべて、扉の方へと歩いて行く。
「どういうつもりですかドシー?」
「えっー、だって飲みたいんだもんジュース。魔界のとは違って、人間界のジュースは美味しいからさぁ」
後ろから会話が聞こえてくる。
どうやら、少々変わったお連れ様のようだ。
私は扉を開けて、一旦部屋の外へと出る。
すると、廊下で立っていた神父様とアンネが私の方へとすぐに歩み寄ってきた。
「どうかしましたか?」
神父様が神妙な面持ちで私に訊ねる。
「ええーっと、女性の方がジュースを飲みたいらしいので、用意しようかと…」
私の言葉に神父様が目を丸くする。
「私が用意してきます。あとで持って行きますので、エメさんはお客様のところへと戻って構いませんよ」
アンネがそう言って、すぐに食堂の方へとスピーディに向かった。
「…じゃあ、ジュースはアンネに任せて、私は戻りますね」
神父様にそう伝えて、私は再び部屋へと戻る。
「ジュースはあとで別のシスターが届けてくれますので…」
ソファに座る女性のお客様にそう伝えて、私も向かいのソファに腰掛けた。
「…申し訳ありませんね。ドシーは少々厚かましいところがありまして…本当にお恥ずかしい」
男性が苦笑いを浮かべた。
「えっ?オーリュウ様が恥ずかしいのか?」
隣のドシーという女性が男性に訊いた。
「あなたのことが恥ずかしいのですよドシー」
男性が声のトーンを下げて忠告する。
がドシーという女性は理解していない様子だ。
…オーリュウ様?
ドシーという女性が言った名前に私の記憶が引っかかる。
…まさか?
「どうやら、私のことをご存知だったようですね?」
私の様子に気づいた男性が笑みを浮かべた。
「…はい。話に聞いたことがあるだけですが…」
そう…オーリュウという名には覚えがあった。
魔王軍幹部の一人であるオーリュウという名前に…




