ありがとう
ウィルさんとレックさんとの戦いから数日後、私はお世話になった司教様をはじめ、教会の方々にお礼の挨拶をしてから、皆さんに別れを告げた。
そして、教会の敷居を出たところで、ミレイが私を待っていた。
「もうタオカモイに戻るの?」
開口一番にミレイが私に問いかけた。
「まぁね。私を待っている推しがいるもんで」
アンネのことを脳裏に思い浮かべながら、ミレイに答える。
「だから何よそのおしって…?まあ、いいや。くれぐれも気をつけて帰るのよ…って、アンタにそんな心配はいらないか」
ミレイが馬鹿にするように笑う。
「おいおい、私も乙女だぞ?」
そう言い返して睨む。
「…知ってるよ。今回は特に乙女だったもんね?感情移入し過ぎて仕事に支障が出ちゃうほどに」
ミレイがニヤニヤとした顔をこっちに向ける。
思わず、顔を顰めた。
「…だれが感情移入だ。あの無愛想勇者め」
勇者ロートに言われた言葉を思い出してぼやく。
「…何言ってるの?ロート様はあなたの恩人なのよ?」
ミレイの言葉にますます顔が歪む。
「…亜空間から助けてもらったこと?」
アイツに借りを作ってしまったのはかなりの屈辱だ。
「違う違う。エメが収容所に監禁されたことよ」
ミレイが左手を左右に振って否定する。
「どゆこと?結局、監禁されてたじゃない?何でアイツが出てくるの?」
思わず首を傾げる。
「…あの時、勇者協会の一部のお偉いさんがすぐにアンタの身柄を渡すように指示してきたのよ。でも、それをロート様が頑なに拒んだ。これはチートーズで起きたことだから、チートーズの収容所に入れるべきだと。ロート様がああ言わなかったら、アンタは今頃、どこに連れて行かれていたやら…ロート様に感謝するのね」
ミレイの説明にウッとなる。
たしかにウィルさんとレックさんの時も、すぐに勇者協会が出てきてチートーズの収容所には入れさせずに使者を出して、二人の身柄を引き取っていった。
クソッ、また知らず知らずのうちに借りを…
思わず頭を抱えた。
「…アンタには案外、ウィルさんよりもロート様の方がお似合いかもよ?」
「ちょっと!変なこと言わないでよ!あんなのお断りよ!」
ミレイの突拍子もない台詞に思わず怒りを露わにする。
ミレイは面白がって笑っている。
しかし、急に笑みが止んだ。
「…あの時、本当はなんとかなったんじゃないの?」
ミレイの言葉のあの時がすぐにウィルさんとレックさんとの戦いだと理解する。
「プライベートホールに囚われる前も、囚われたあとも…本当はなんとか出来たんでしょ?」
ミレイがじっと私を見る。
「ただ、それをするとウィルさんを殺してしまう可能性があったから、エメはしなかったんじゃない?」
続けてミレイが私に問いかける。
「…買い被り過ぎ。結構、ピンチだったわよ…」
とミレイから視線を逸らす。
「…まっ、と言ってもお互い様だから、何も言わないけどね」
ミレイがそう言って、笑みを浮かべた。
「じゃあ、そろそろ私も行くね?次、エメに会う時にはゴタゴタに巻き込まれないことを期待してる。またね」
ミレイが私に手を振って踵を返し、私から離れていく。
その後ろ姿を見ながら、今回はアンタが巻き込んだんでしょうが…と心中で悪態をついた。
「んー!さて…私も行くとしますかね」
荷物を背負ったまま伸びをして、そう呟いた。
馬車の停留所に向かうため、ミレイとは反対方向の道を歩き出す。
その時、ふと最後にウィルさんと目が合った時のことを思い出した。
あの時、ウィルさんは声には出さなかったが、私にこう伝えたのだ。
ありがとう
その真意は分からない。
…でも、きっとウィルさんは誰かに復讐に駆られた自分を止めて欲しかったのかもしれない。
そして、私を街案内してくれた時のウィルさんが、本当のウィルさんだったのではないかと私は信じたいんだ…
「さようならウィルさん…そして、ありがとう」
空を見上げながら、そう囁いた。




