プライベートホール
しまった…迂闊だった。
薄暗い路地だった辺りの景色が一瞬にして暗闇に覆われてしまったのだ。
私を犯人だと証言したシスターがこう言っていた。
急に辺りが暗くなったと…
…そういうことだったのか。
ウィルさんとレックさんがいるであろう場所を睨む。
暗闇の中でも私たちの立ち位置は変わらないことは気配で理解した。
「…亜空間魔法。話で聞いたことはあったけど、実際見たのは初めて…それも、まさか体験するとは思わなかったわね」
ミレイもシスターの証言で何かあると感じていたようだが、私同様にまさか亜空間魔法とは思わなかったみたいだ。
てっきり、幻術や暗闇などの視覚を妨害する魔法の類いとばかり思っていた。
「…なるほど。この魔法で勇者様たちを次々に葬ったという訳ね…でも、魔力はかなり消費する筈。ウィルさんの魔力はもう無いに等しい」
私は暗闇の中でウィルさんに話しかけた。
「…エメさんの言う通り、僕の魔力はもう空っぽですよ。亜空間魔法…いや、このプライベートホールは相手ごと僕の魔法で作り出した亜空間へと移動させることが出来る。ただし、プライベートホールは全魔力を消費するため、一度使えば魔力を完全に回復させるまでは次は使えない」
暗闇の中からウィルさんの話が聞こえてきた。
だから、勇者様が襲われるのにはある程度、間隔が空いていたのか…
「…ミレイ、亜空間魔法を解除出来る?」
私より魔法が長けているミレイなら出来るかもしれない。
「…無理ね。正確には出来たかもしれないけれど、もう魔力的に無理かも…変化の魔法で魔力を消費したから、おそらく亜空間魔法を解除するなら作り出すときと同様に全魔力を消費しなきゃ出来ないでしょうしね…」
隣からミレイの返答が聞こえてくる。
「…亜空間魔法を解除出来るなんて恐ろしい話だ。しかし、例え魔力を消費していなくともおそらく解除は出来なかったと思うね」
レックさんがそう言って笑う声が聞こえた。
「…何それ?」
暗闇の中で怪訝な表情を浮かべた。
「まあ、それはすぐに分かりますよ。あなたたちがこのプライベートホールから出る方法は時間が経過するか、僕を殺すかのどちらかです。前者はあまり期待しない方がいいですね。少なくとも六時間以上は経過しないと無理です」
ウィルさんがわざわざご丁寧に教えてくれる。
「…あなたが解除することは出来るのでしょ?」
ミレイがウィルさんに訊いた。
「勿論出来ます。ですが、それをするのはあなたたちを殺したあとです」
ウィルさんがサラッとそう答えた。
「…へぇ、随分と自信がお有りなんですね?私たちを殺す自信が?」
思わず、ロザリオを握る右手に力が入る。
「ええ、あります。今までこうやって、勇者たちを葬ってきましたから…」
ウィルさんが私の質問に自信たっぷりに答える。
たしかにこの暗闇では視界が不良で慣れていない私たちは不利だ。
しかし、ウィルさんにはもう魔力が残っていない。
魔法が使えるのはレックさんだけだ。
魔法なしでも余程の自信があるのか…はたまた、まだ何か奥の手があるのか?
ウィルさんたちの自信に少し不安を抱いた。
…でも、もう戦うしかない。
「…大いなる神よ我に力を与えたまえ」
そう唱えて、右手のロザリオをデカくする。
ミレイも同じように唱えて、ロザリオを変化させた。
暗闇で見えないが、ミレイのロザリオは私とは違って十字架は細長くなっている筈だ。
「なるほど、それがあなたたちの武器ですか?」
ウィルさんが暗闇の中でそう言った。
それはこの暗闇の中でもウィルさんは私たちのロザリオが見えていることになる。
…やはり、思っていた通りだ。
仕方ない早くこの不利な状況を打破しなくてはと、私は暗闇を照らす光の魔法を左手で唱えた。
…しかし、何も起きなかった。
えっ…?…何で?
まさか…!?
「…エメも気づいた?私も今さっき気づいたわ…どうやらこの空間では魔法は使えないみたいね」
ミレイの言葉に、この暗闇では見えないがきっと私は驚いた表情をしているに違いない。




