最低な勇者
「…愚かな行為?」
ウィルさんの言葉に思わず訊き返す。
「…ああ、とても愚かで自分勝手な勇者の行為さ」
ウィルさんが哀しげな表情でそう言った。
大切な家族を失った時のことを思い浮かべたのだろう。
「…僕とレックは同じ村出身なんだ。その村にはとても穏やかで安らぎに満ちた時間が流れていた。当たり前の日常…これからもずっと続くと思っていた日常が突然、目の前で崩れ去ったんだ…」
ウィルさんが思い出すように語り出す。
「僕たちの村にある日、一人の勇者様がやってきた。でも、とても偉そうで口の悪い勇者だったから、村の者にはあまり好まれてはいなかったけれど、勇者の免許証を見せられたら食事や宿の提供を断ることは出来なかったため、村はその勇者を受け入れることにしたんだ」
ウィルさんの話に隣のレックさんも当時を思い出したのか、怒りが表情に表れ始める。
「しかし、勇者はあることを隠して村にやってきていた…」
ウィルさんの表情にも怒りが満ちていく。
「あること?」
私の隣に立つ女勇者ソフィアの姿をしたミレイが訊いた。
「魔族に追われて逃げていたということを…」
ウィルさんの返答に思わず背筋が凍る。
「いや、隠していたというよりはわざと言わなかったんだ…何故ならアイツは最初から村を囮にして自分だけ逃げるつもりだったからね」
ウィルさんが少しだけ声を荒げた。
「そして、やがてその日はやってきた…勇者を追ってきた魔族の集団が村に現れたんだ。僕たちは丁度、村の外れにある川で遊んでいたから、難を逃れることが出来た…しかし、他の村の者は皆、魔族たちによって殺された…僕の家族もレックの家族も皆…」
ウィルさんの話に気持ちが切なくなる。
「子供だった僕たちには初めは何が起きたか分からなかった。でも、調べるうちに村に訪れた勇者が自分の命を狙う魔族の集団が現れる前にさっさと逃げて、村の者たちを見殺しにしたことが分かったんだ…」
…最低な勇者だ。
「何が勇者だ!あんなやつが何で勇者になれる!一体、勇者協会は何やっているんだ!」
ウィルさんが感情的になって叫んだ。
「…でも、そんな憎むべき勇者にあなたたちはなった」
ミレイがそう言った。
「ああ、勇者に近づくには勇者になる方が一番手っ取り早いからな。何より強くなれる」
レックさんが答える。
「それで勇者殺しを?でも、あなたたちの村を見捨てと勇者とあなたたちが殺した勇者様たちは違いますよ!」
私はウィルさんに訴えるように発言した。
「違わないさ…皆、勇者なんて心から平和のために戦ってなんていない。このチートーズに来て、他の勇者たちに関わって本当にそう思った…」
ウィルさんの返答に私は何も言えなかった。
私もそう思うからだ。
「だから、僕たちは勇者たちを殺した。いや、これまでも殺してきた…勇者の資格がないと思う勇者は片っ端に…」
ウィルさんの表情がみるみるうちに険しくなる。
「…あなたたちの仇は村を見殺しにした勇者でしょ?別の勇者たちを殺す必要まではなかった筈よ」
ミレイが鋭く言った。
「…仇は勇者になった直後に取ったさ。でも、その時思った。このままではまた愚かな勇者が増え続けるんじゃないかと…だから、俺たちは勇者を殺し続ける。勇者協会そのものを否定するために…」
レックさんが憎しみに満ちた眼でそう宣言する。
自分たちの目的であった勇者の仇を取って怒りの矛先を失った彼らは、勇者様たちを殺し、勇者協会を憎むことでその憎しみを満たしているのだろう。
なら、誰かが止めるしかない。
私はミレイを見る。
すると、それを合図に私とミレイは変身を解いて、元の姿へと戻った。
「…仕方ないですね。出来ればエメさんとは戦いたくはなかったけど、僕たちの目的のためにはそれは避けられそうにない…本当にごめんなさい」
ウィルさんが一度、鞘に収めた剣を再度抜いた。
ウィルさんの言葉に仕方ないなと、首から提げているロザリオのチェーンを首の後ろに手を回して外す。
その瞬間、急に辺りが暗闇に包まれた。
夜の暗さとは違う、完全なる暗闇へと…




