勇者ロート
私はウィルさんがご用意してくれた馬車に揺られて、チートーズ北側から東側へと向かった。
景色を眺めながら、御者ではなくウィルさんが自ら私に色々と説明をしてくれる。
やがて馬車が東の停留所に停まると、ウィルさんが先に馬車から降り、優しくエスコートして私を馬車から降ろしてくれた。
馬車から降りた私たちはチートーズの東側を歩いて観光する。
大きな時計台。
噴水のある美しい庭園。
街の中を流れる川に架かるアンティークな橋。
ウィルさんが案内してくれた場所はどれも素敵だった。
何よりウィルさん自体が素敵だ。
ウィルさんとの事実上デートに酔いしれた私はすっかり夢心地だった。
そのあと、ウィルさんの提案で食事へと向かう。
「食事のあと、次は南と西を案内しますよ。中央の方は明日の夜に行かれると思うので」
隣を歩くウィルさんが優しく私にそう言った。
それに私はしおらしく、こくりと頷く。
「おい、ウィル!こんなところで何をしているんだ?」
ウィルさんと食事をしに飲食店が並ぶ通りへと移動している最中、誰かがウィルさんを呼び止めた。
私とウィルさんは足を止めて、その声がする方へと目を向ける。
そこにはプレートアーマーを身につけ、如何にも俺は強いんだと見せつけるような立派な剣を背負った長い黒髪の男が立っていた。
更に目付きが悪い。
第一印象からして、コイツは性格が悪いと悟る。
その男が歩み寄ってきて、私たちの目の前で立ち止まった。
そして、訝しげに私を見る。
「何だこの女は?」
なんともムカつく口調で男がウィルさんに訊いた。
「シスターのエメさんです。勇者協会がシスター組合に要請したシスターの方々の中の一人ですよロートさん」
ウィルさんが丁寧にこんな奴に説明をする。
ロートと呼ばれた男が私を見ながら、ふーんと感想を述べた。
「で、何でお前はこんなシスターと一緒にいるんだ?それに何でお前は剣を所持していない?」
ロートという嫌な奴がウィルさんに訊いた。
…こんなで悪かったな。
「このチートーズに初めて来た彼女に街を案内しているんです。女性に街を案内するのに剣を持っていては失礼でしょ?」
ウィルさんの言葉にたしかに今日は剣を持っていないことに気づく。
あと、格好も昨日のような勇者っぽさがないような服装だ。
そんなことに今まで気づかないなんて、よほど私は浮かれていたのだろう…
「…相変わらずだなお前は?勇者が立て続けに襲われているというのに、剣を未所持だと?勇者の風上にも置けん奴だ」
とロートという男がそう切り捨てる。
「こんな白昼から襲ってきやしませんよ。まして、こんな人集りで…やられたのは全て人気がない時間と場所でしょう?」
ウィルさんが淡々とロートという男に反論した。
それにロートという男が呆れたようにため息をつく。
「まっ、せいぜい次にお前の死体が転がらないことを祈ってるぜ」
ロートという男が馴れ馴れしくウィルさんの肩をポンと叩いて、私たちから離れていった。
私はそのムカつく背を見つめながら、ウィルさんに質問する。
「…何ですかアレ?」
すると、ウィルさんがクスッと笑った。
「…本当にエメさんは素直ですね。あの人は私と同じ勇者のロートさんです。嫌でも明日の夜にまた顔を合わしますよ」
ウィルさんに言われて、変な表情になっていたのかと自分の顔を手で触る。
「さあ、気にせず食事に行きましょう」
ウィルさんがそう言って、私の手を取る。
それにすっかり私は舞い上がってしまって、すぐに嫌な勇者の顔を忘れてしまった。




