怒るアンネ
「一体、どういうことなんですか神父様!?」
神父様の部屋でアンネが声を荒げた。
普段、おしとやかなアンネの怒った表情に、神父様が困った顔で視線を逸らす。
それを少し後ろでざまあみろと心中で悪態をつく。
私の出張の話を耳にしたアンネが急いで私の元に事情を訊きに来たのだ。
私はあくまでありのままをアンネに説明した。
すると、アンネが私の手を引っ張って神父様の部屋へと向かった。
「…落ち着いて下さいアンネさん。これは仕方ないことなのです…誰かが行かないと勇者様がお困りになられる。それにこれは勇者協会直々の教会組合への要請ですので、そう簡単には断れないのです。どうか分かって下さい…」
神父様が必死にアンネを説明して宥めようとする。
しかし、アンネは首を横に振った。
「いいえ、分かりません。何故、エメさんなのですか?エメさんはここに来てまだ一ヶ月も経っていないのですよ?それなのに出張…?先にここに慣れて貰う方が大事なのではないのですか?」
ああ…アンネの暴走が止まらない。
でも、推しにこうまで想われているのは本当に幸せである。
「…私も一度は断りました。ですが、組合の方からどうしてもと言われ…アンネさん、マリアーナさん、ローザさん、エレンさんは出張に出すにはまだ若すぎる。そうすると、来たばかりとはいえ頼めるのはエメさんしかいないのです…お願いですから、理解してくれませんか?」
神父様が何とかしてとばかりにアンネの後ろにいる私を一瞥する。
だが、私はそっぽを向いた。
「…なら、私もエメさんに同行します。勇者様もサポート役のシスターは一人でも多い方がいいと思われる筈です」
…やっぱりこの子は頑固だ。
「…それは無理です。アンネさんにはここでの仕事をして貰わなければなりません。それに流石に二人も抜けられると困ります。この町には貴方を必要としている人がたくさんおられるのですよ?それを放置して行くと言うのですか?」
神父様もなかなか譲らない。
最初は神父様が困る様を見ていて、少し楽しかったが、これ以上は流石に神父様が可哀想だ。
「そうだよアンネ。この町を…この町の人をよく知るアンネにしか出来ないことがこの町にはある。だけど、私はまだ来たばかりだし、まだそうじゃない。だから、誰かが行かなければならないのなら、やっぱり私が適任だと自分でも思う。私のために言ってくれるのは嬉しいけれど、これ以上神父様を困らせてはいけないよ」
後ろからアンネに話しかける。
すると、アンネが眉を顰めた。
まだ納得していない顔だ。
「でも、ありがとう。アンネの気持ちはとても嬉しかった」
と付け加える。
「…分りました。エメさんがそう言われるのなら…」
アンネがようやく納得する。
「私はてっきり神父様が先日エメさんが急に休暇を取ったことを根に持って、意地悪をしておられるのかと思って…だって、あれはこの町を救うためにエメさんがしてくれたことなのに…」
アンネが神父様の目の前で堂々とそんなことを言う。
「…いやいや、神父様であろうお方がそんな個人的感情で出張を決めたりはなされないよアンネ」
とわざと大袈裟に言って、さらりと神父様に釘を刺す。
「さあさあ、仕事に行く時間だよ。私はもう少し神父様とお話があるから、先に出かけておいて」
私がそう言うと、アンネが少しテンションが下がった様子のまま分りましたと答えて、神父様の部屋をあとにした。
「アンネさんがあんな感情的になるなんて意外でした…」
アンネが出て行ったあと、神父様が驚いたようにそう口にする。
「ですね…言う時は言うみたいですね。まあ、神父様にとってもそれは頼もしいことだとは思いますよ」
私もアンネが出て行った部屋のドアを見つめながらそう言った。
「…言い訳に聞こえるかもしれませんが、私は決して個人的感情など一切入れていませんからね。それに勇者様殺しとあればあなたにとって関係がない話ではないでしょうし…」
「…はい、心得ております」
私がそう言うと、神父様がにこやかに笑った。
「くれぐれも気をつけて行って来て下さい。あなたの帰る場所はここにあるのですから、それを忘れないように」
神父様の言葉に思わず私も笑みを浮かべた。




