デジャヴ
「…は?」
神父様の言葉に私は思わず、何を言ってるんだ?という表情を浮かべた。
「ですから、明日からしばらく出張に行って下さい」
盗賊たちの襲撃から一週間が経った日の朝食後、私は神父様の部屋に呼び出されて唐突にそう告げられた。
案の定、私は呆気に取られている。
「……ち、ちょっと待ってください。最近、寒くなってきたせいか朝は耳が聞こえにくくなってきまして…聞き間違えかと思うのですが、今出張って言いました?」
部屋の机に両肘を突き、手の甲に顎を乗せている神父様に訊いた。
「聞き間違えではありませんよ。たしかに出張に行って下さいと言いましたから」
神父様の言葉に思わず頭が沈む。
「…えっ?まだ、一ヶ月もまともに働いていないのにもう出張…?何か私が神父様を怒らせるようなことでもしたんですか?」
私はやや混乱している。
そりゃそうだ。
配属されてまだ日が浅いのに、急にそんなことを言われたらそうなるだろう。
まして、若い子ならともかく、年齢的に充分ベテランの私が神父様を怒らせる訳がない。
…訳でもないか。
「別にあなたに怒っているとかではありませんから、安心してください」
とにこやかに神父様が言った。
…なんかここまでのやり取りにデジャヴを感じるのは気のせいだろうか?
「…理由は?私が出張に行かされる理由は何ですか?」
ようやく落ち着いてきた私は神父様に出張の理由を訊いた。
「エメさんはフレイリン領をご存知ですか?」
「ええ、勿論存じています…どの王国にも属さず、商人の国と呼ばれている地域ですよね?」
神父様が私の返答にこくりと頷いた。
「はい、そのフレイリン領のチートーズで最近、妙な事件が起きているのです」
神妙な面持ちで神父様が話す。
チートーズはフレイリン領にある数多くの商人の街の中でも随一の大きさを誇る街だ。
「…えっ、妙な事件?」
「勇者様が殺されるという事件です。それも立て続けに…最初の勇者様が殺されてから、三ヶ月の間でもう七人も犠牲になっているとのことです」
神父様が深刻な口調で私に説明する。
「…なるほど、でも何でそれが私の出張に繋がるんです?」
思わず、首を傾げた。
「なんでも、勇者様が殺される事件を受けて、勇者協会が異例の注意喚起を出されたようです。そして、チートーズに所属する勇者様たちのために勇者協会が付近の教会組合に勇者様のサポート役としてのシスターを派遣して欲しいと要請されたので、その話がウチの教会にもやってきたという訳です」
神父様が長々と説明したあとで、すぐ頭の中に疑問が湧く。
「…で、神父様はその話をお受けしたのですか?」
無表情で神父様に訊ねる。
それはそうだ…フレイリン領に行くのに、ここタオカモイの町から何日掛かると思ってんだ?
「勿論です。勇者様がお困りになられている。困った人を助けるのが我々のお仕事です。そうですよねエメさん?」
神父様が堂々と私に言い放つ。
…絶対、神父様はこの前の仕返しをしているに違いないと心中でぼやく。
「…それは分かりました。ですが、それが何故私なんですか?」
そうだ。
この教会には私を含めて五人のシスターがいる。
それなのに最近来たばかりの私が選ばれる理由が分からない。
「勿論、エメさんがここに来てまだ間もないことは理解しています。ですが、経験ということに置いては、ここのシスターの中でエメさんが一番のベテランです。それに今回は何者かに狙われている勇者様のサポートですから、回復だけではないエメさんが適任だと思ったからですよ。この話は是非エメさんにお願いしたいのですが嫌ですか?」
神父様が笑顔で私に圧をかけてくる。
「分かりました!出張をお受けします!ただし、くれぐれも歩いて行けなんて言わないで下さいよ?」
と完全に私は神父様に白旗を挙げた。




