調律者
「申し訳ない。こそこそする気はなかったのですが、漆黒の魔女を倒したという貴方の力をこの目で見ておきたかったもので…」
カリオスさんが苦笑する。
「あの方は?」
アイリーンが地面に倒れたあとすぐに私の元に駆け寄ってきたアンネがカリオスさんを見ながら私に訊ねた。
「インナリィ王国の魔術士のリーダーであるカリオスさん。今回の事を相談したら、心良く協力してくれたの」
アンネを見て、説明をした。
「王国の魔術士のリーダー…そんな方の協力を簡単に得られるエメさんって、一体な…」
アンネの口を人差し指で止めた。
「私は教会のシスター。ただそれだけだよアンネ」
アンネは黙ったまま、頷いた。
「カリオスさんこれで借りは無しですね?」
私とアンネの側で立ち止まったカリオスさんにそう言った。
すると、カリオスさんが首を横に振る。
「…いいや、今回の件は本来なら王国がちゃんと対応しないといけなかった問題です。だから、むしろまた貴方に借りを作ってしまった」
カリオスさんのイケメンスマイルが私の胸を刺激する。
すぐ側にイケメンと推し。
ああ、控えめに言って幸せ…
「エメさん…何故彼女は町や村を襲ったのでしょう?」
アンネがすぐ近くで倒れて気を失っているアイリーンを見ながら、私に訊いた。
それを私ではなくカリオスさんが答える。
「…彼女たち盗賊のほとんどが魔界の入り口がある地域の近くにあった村の出身で、その村は魔族によって滅ぼされてしまったようです。その時、王国は何もしてくれなかった…なので、インナリィ王国の領土の町や村を襲い復讐をしていた。いずれは力をつけて、王国に直接復讐をするつもりだったみたいです」
カリオスさんの説明にアイリーンが神などいないと怒りを露わにしたことに納得する。
きっと、魔族に村を襲われた時、必死で神様に祈ったのだろう…でも、その願いは叶いやしなかった。
かと言って、アイリーンたちのしたことは決して許されない。
自分の村を襲った魔族と同じように、命乞いをする相手を平気で殺したのだから…
「…捕まった盗賊たちはどうなるんですか?」
アイリーンを見下ろしながら、カリオスさんに訊ねた。
「おそらく全員処刑されるだろうね…」
カリオスさんの返答になんとも言えない感情が湧き起こる。
「…そうですか」
そう答えて、私は思った。
魔王が倒されても平和にならないと考える訳だ…
…人と人の間ですら、こんな憎しみ合いが生まれる。
やはりこの世は均衡を保たなければならない。
そのために私たち調律者がいるのだから…




