アオイコ半島
私の一言に勇者様の表情が豹変した。
それはおそらく勇者様しか知り得なかったことを私が知っていたからだろう。
「…シスター。お前の仕業か…?」
勇者様が小声で私に訊いた。
「何のことです?」
と、しらを切る。
「…惚けるな。いつから、私を疑っていた?」
勇者様が鋭い眼で私を睨む。
「…勇者の試験が行われるのはアオイコ半島なんかではなくハルユハク諸島ですよ勇者様」
と悪戯っぽく答える。
「てか、アオイコ半島なんて存在しないです」
「お前…謀ったな…!最初から疑われていた訳か?お前には魔法で隠した魔法陣が見えていたのか…?」
勇者様の荒げた声に周囲の者が何事かと私と勇者様を見ていた。
しかし、何を言い合っているかまではまだ理解していない様子だ。
「魔法陣は見えなくとも、それを隠す魔法が怪し過ぎたから、すぐに分かりましたよ。普通に物で隠されていたら、気づきませんでしたけどね」
私の返答に勇者様が歯をくいしばる。
「まあ、流石に58箇所の魔法陣を解除するのは大変でしたよ。あそこから魔物を召喚して、町を魔物で襲わせ、逃げる町人を外で盗賊たちが皆殺しにする。そういう筋書きだったんですよね?他の町や村を滅ぼしたように…」
私の説明に勇者様は何も言わなかった。
「…どういうことですか?勇者様が魔物を町に召喚しようとしていたなんて…」
私と勇者様の会話を聞いていたアンネが信じられないと言った表情で勇者様を見た。
「この女は勇者様なんかじゃないよアンネ。偽物の勇者だ。本当は盗賊たちの仲間で勇者として町に潜入し、魔法陣を仕込んでいたのさ」
私の言葉に思わず周囲の者たちがアイリーンから離れた。
するとアイリーンが高らかに笑い声を上げた。
「その通りだよシスター。私は勇者なんかじゃない。そこにいる盗賊たちのリーダーさ」
アイリーンが自分の正体をあっさりと認めた。
「しかし、いつだ?いつ魔法陣を解除する暇があった?たしかに昨日の朝に確認したときは異常はなかった…」
アイリーンが私に質問する。
「まだ、昨日の朝は場所を把握していただけで、何もしていなかったから、そりゃそうだろうね」
「…もしかして、あのエビルツリーか?」
アイリーンが驚いた表情を見せた。
「ご名答。アンタが魔物と戦っていた間に走り回っていたのさ。ていうかアレなんかおかしいと思わなかった?」
「…倒した手応えがなかった。まさか…!?」
アイリーンがようやく気がついたようだ。
「そう、アレは私が魔法で作り出した幻術。アンタは私の幻術魔法にまんまと騙されたわけ。アンタが幻術相手に派手に暴れるから家や道がちょっと壊れたじゃない?手伝うの大変だったわ」
すると私の説明を訊いたアイリーンが大声で笑い始めた。




