58箇所
「神父様!?」
町の入り口へと辿り着くと、守門の男性の一人がこちらを見て叫んだ。
「状況はどうですか?」
神父様が守門に訊ねる。
「見ての通り、まだ盗賊たちに動きはありません。ですが、あの数です…攻めてこられたら一溜りもありませんよ…」
そう言って、守門が町の外へと視線を向けた。
それを追うように私もその方向を見る。
町の入り口からすぐのところに大勢の盗賊たちが武装して、こちらを窺っていた。
「…あ、あれだけじゃないぜ。町を取り囲むようにあちこちに盗賊たちがいたんだ…少なくとも百人以上はいる…」
町を守ろうと入り口に来た別の男性が怯えた口調でそう言った。
槍を持つ手が小刻みに震えている。
「…とにかく、まだこちらからは仕掛けてはいけません。勇者様が来てくださるか向こうが動くまではこのまま待機して下さい」
神父様がそう指示を出す。
周りには武器を手にした男たちがたくさん集まっている。
だが、それでも盗賊たちには敵わないだろう。
数も少ない上に、相手は戦い慣れている手だれだ。
まともにやり合えば、タオカモイの町も他の町や村のように壊滅させられてしまう。
「勇者様だ!勇者様が来られたぞ!」
誰かがそう言った瞬間、皆その方へと視線を注ぐ。
私も同じように勇者様が来たであろう場所に顔を向ける。
そこにはいつものように堂々とした立ち振る舞いでこちらに歩いてくる勇者アイリーン様の姿があった。
「アイリーン様!どうかお力をお貸しください!」
「我々と共に盗賊と戦ってください!」
と次々に周りの男たちが期待を勇者様に向けた。
「…いくら私でも、あの人数相手では敵うかどうか」
勇者様は少し困ったようにそう口にした。
「大丈夫です勇者様。皆も一緒に戦ってくれますし、回復役は私たちに任せて下さい」
すぐ近くにいた私は珍しく弱気な勇者様を勇気づけようとそう言った。
すると、私の周りの男たちがそうだそうだと士気を上げて大きな声を上げていく。
しかし、勇者様は依然浮かない顔をしている。
そして、勇者様が突然何やら詠唱を始めた。
その光景を皆が期待を込めた眼差しで見つめている。
その時、私は盗賊たちの様子を窺うように視線を町の外へと向けた。
「…盗賊たち襲って来ないですね?まるで何かを待っているように思えます…」
私と同じように視線を盗賊たちに向けていたアンネがふと私にそう言った。
…正解だよアンネ。
心中でそう囁く。
そして、再び勇者様に視線を戻す。
すると、勇者様が詠唱をやめていた。
しかも、不可解な表情で町の方を振り返っている。
「…勇者様?」
勇者様の様子がおかしいことに気づいた一人の男性が心配そうに訊ねた。
だが、勇者様は気にせずに再び詠唱を始める。
しかし、また詠唱をやめては町の中の方へと視線を向けた。
「…58箇所」
不可解な行動をしていた勇者様に私は呟くようにそう言った。
すると、勇者様がそれに反応して、今まで見せたことがないような顔を私に向けてきたのだ。
「どうかしましたか勇者様?」
私は勇者様に訊くと同時に口角を上げた。




