休暇を下さい
「…は?」
神父様が私の言葉に思わず、何を言ってるんだ?という表情を浮かべた。
「ですから、明日からしばらく休暇を下さい」
アンネに町を案内された翌日の朝食後、私は神父様の部屋を訪れて唐突にそう申し出た。
案の定、神父様が呆気に取られている。
「……ち、ちょっと待ってください。最近、歳を取ったのか耳が聞こえにくくなってきましてね…聞き間違えかと思うのですが、今休暇って言った?」
部屋の机に両肘を突き、頭を抱えて俯きながら、神父様が私に訊いた。
「聞き間違えではありませんよ。たしかに休暇を下さいって言いましたから」
私の言葉にますます神父様の頭が沈む。
「…えっ?まだ、一日もまともに働いていないのにもう休暇…?何かこの町で嫌なことでもあったのですか?」
神父様がやや混乱しておられる様子だ。
そりゃそうだ。
配属されて早々にそんなことを言われたら、そうなるだろう。
まして、若い子ならともかく、年齢的に充分ベテランの私が言ったら、まず理解は出来ない。
「いい町ですよ。ここが嫌とかではありませんから、安心してください神父様」
とにこやかに返す。
「…理由は?休暇が欲しいという理由は何ですか?」
ようやく落ち着いてきた神父様が私に休暇を申請する理由を訊いてきた。
「神父様はインナリィ城のクラリス姫をご存知ですか?」
「ああ、勿論存じていますが…」
「そのクラリス姫…いえクラリスがここに来る前に、私に言ったんです。落ち着いたら会いに来なさいって」
堂々とした口調で神父様に話す。
「…えっ、クラリス?えっ…でも、落ち着いてからと姫はおしゃっていたのでしょう?」
再び神父様が私の言葉に混乱し始める。
「はい、ですからそれは今かと」
私の返答に神父様が再び頭を抱えた。
それを見て、更に追い討ちをかける。
「あっ、クラリスは別にここに来ても良いって言っていたので、神父様さえよければ来て貰いましょうか?」
少し悪戯っぽくそう言った。
「分かった!分かりました!休暇を認めます!ただし、くれぐれも粗相のないようにお願いしますよ」
と完全に神父様が白旗を挙げた。
「はーい、分かりました」
軽くそう返事をして部屋を出る。
すると、部屋の外で心配そうな表情でアンネが私を待っていた。
「…エメさんどこかに行かれるのですか?」
少し不安な推しの表情も堪らない。
「神父様に許可を頂けたから、少し出掛けてくるね。すぐに帰ってくるから安心して」
私はそう言って、アンネの頭に優しく手を置いた。
「あっ、そういえばここに来る直前に王国の魔術士の人が言っていたんだけど、最近ここら辺で町や村が襲われていることもあって、この一週間くらい王国がこの地域を巡回しているんだってさ。だから、私もここを安心して離れられる。まっ、この町にはアイリーン様がいるから心配はいらないけどね」
「そうですか…エメさんもくれぐれも気をつけて帰ってきて下さいね」
本心から私を心配してくれている表情に少し心が痛む。
…本当にいい子だ。
推しとの暫しの別れである。
そして、次の日の早朝に私はタオカモイを出発して、インナリィ城へと向かった。




