素敵な勇者様
「さあさあ遠慮なく入って、といってもこの家は町の人のご好意で貸して頂いている家だけどね」
勇者様の案内で私とアンネは勇者様の住む家へとやってきた。
「お邪魔します…」
少し遠慮がちにそう言って、勇者様の家の敷居を跨いだ。
対してアンネは慣れた様子で入っていく。
その時、家の入り口付近の壁の下の方にあったものに目がいった。
「どうかしましたかエメさん?」
アンネが私の様子に首を傾げる。
「…ううん、何でもない。それにしてもアンネはよく勇者様の家に来るの?」
「はい、よく家に招いて下さって、色々なお話を聞かせて下さいます」
私の推しのアンネの返答に少しだけ勇者様が羨ましくなった。
…今日、私もアンネを部屋に誘おうかな?
いや、アンネはあくまで私の推し…それはあまりに烏滸がましいというものじゃないのか…?
それに部屋が汚いからダメだ…
「大した話はしていないよ…ん?どうかしましたかエメさん?」
「い、いえ、何でもありません…」
勇者様に訊かれて、どうやら心情が表に出てしまっていたようだと気づく。
勇者様はテーブルの椅子へ私たちを座らせ、暖かい紅茶を出して下さった。
「勇者様がこの町におられるのは心強いですね?何でも最近は近くで町や村が滅ぼされたと聞きました。なので、勇者様の存在を知った時は心から安心しました」
勇者様が私たちに紅茶を出したあと、椅子に腰掛けたタイミングでそう切り出した。
「…いや、私なんてまだまだだよ。なんたって、まだ勇者になってから日が浅いからね」
勇者様がそう言って、紅茶が入ったカップに口を付ける。
「いえ、勇者になれるなんて充分に凄いことです。勇者の試験って大変だって聞きました。たしかアオイコ半島でしたよね?なんでも行くだけでも、相当苦労するとか…」
私の言葉に勇者様が薄く笑みを浮かべた。
「…ええ。でも、勇者になるためなら多少の苦労など仕方がないことです。それに勇者になることが私のゴールではないですから、勇者になったその先がが一番大事なのだと今でもそう思っています」
勇者様の素晴らしい言葉に、ふとあの胸糞ヘタレ勇者のことを思い出した。
アイツは間違いなく勇者になることがゴールだと思っていたタチだな。
このあと、私たちは色々な話に華を咲かせた。
そして、昼になる前くらいにアンネと共に勇者様の家をあとにした。
「どうでしたか勇者様は?美しくて素晴らしい考えをお持ちの方でしょう?勇者様は町の子供からご老人まで幅広い方たちと交流を持たれていらっしゃって、それは私たちシスターもしっかりと見習いたいところです」
アンネが教会に戻る途中で嬉しそうに私にそう言った。
「うん、素敵な勇者様だった。私も勇者様を見習って明日からこの町で頑張らないとね」
そう、笑顔でアンネに答えた。




