推しのいる生活
久しぶりのふかふかのベッドはとても気持ちが良かった。
とはいえ、知らない土地に来てぐっすり眠れるほど、神経は図太くない。
部屋の窓に朝日が差し込んだ頃、私はバッチリと目が覚めてしまったのだ。
神父様に朝はゆっくりして構わないと言われたのに、部屋から出ていくのも逆に気を遣わせてしまいそうなので、仕方なく荷物の整理をすることにした。
整理を始めてから程なくして部屋のドアをノックする音がする。
私は返事をして、部屋のドアを開けた。
すると、そこには隣の部屋のアンネが立っていたのだ。
「おはようございます。部屋から物音がしたので、もしかしたら起きていらっしゃるのかと思って」
既に修道服姿のアンネが清潔感のある声でそう言った。
私が男なら朝からこんな聖女を見たら幸せな気分になるだろう。
対して、私はまだ部屋着でボサボサの金色の髪を引っ提げている。
「おはようございます。すみません…煩かったですかね?」
「いえ!そうではなくて、もし起きていらっしゃるのなら朝食をご一緒にどうかなとお誘いに来たのです。他のシスターも紹介したいですし…」
アンネが少し照れながら、私に説明をする。
「行きます。丁度、お腹が空いていたので、嬉しいお誘いです。ありがとうございます」
手でボサボサの髪をほぐしながら答える。
「…良かった。では、支度が出来ましたら、私にお声掛け下さい。私は隣の部屋にいますから」
アンネが微笑みながら優しくそう言った。
「分かりました。大急ぎで支度しますね」
「ゆっくりで構いませんよ」
私の言動にアンネがクスッと笑う。
そして、アンネは軽く会釈して、自室に戻っていった。
…可愛い!
背が小さいこともあるが、何よりその振る舞いがヤバい…
私は女だが、彼女の微笑みは私にとって癒しだ。
今回の転勤先は当たりだな…
今日からアンネは私の推しに決定だ。
ああ、推しのいる生活とはなんて幸せなことだろう…
とドアの前で一人ニヤつく私がいた。
「…こんなことをしている暇はない。急がないと…」
私はドアから勢いよく離れると、荷物の中から新しい修道服とクシを探した。
部屋にある見鏡で手早く髪を整えると、すぐに支度が完了する。
そして、部屋を出ようとドアノブに手を掛けた。
がすぐにドアノブを捻らずに部屋を見返す。
すると、綺麗だった部屋が既に荷物が散乱していて、見るに耐えない状態になっていた。
…私は片付けられない女なのだ。
いや、散らかす女か…
前の教会では相部屋だったので、散らかしてもミーナが全て片付けてくれていたのだ。
…絶対に推しには見られないようにしよ。
そう、心に誓い部屋を出た。




