姫様の命令
「シスター」
やや気落ちしていると、姫様が私の前にやってきた。
「助けて頂いて本当にありがとうございました。あなたがいなければ私は生きてはいなかったかもしれません。本当になんてお礼を言っていいのやら…」
姫様が私にお礼を言った。
「姫様。もうそれはいいですから…」
インナリィ王国の姫様にそんなことを言われたら逆に心臓に悪い。
「あっ、そうです!そう言えば、まだ貴方の名前をお聞きしていませんでしたね?」
姫様が思い出しように大きな声を出した。
「…色々とあり過ぎて名乗っている暇がありませんでしたからね」
そう言って、苦笑する。
「宜しければ貴方の名前を教えて頂けませんか?」
姫様が笑みを浮かべて私に名を訊ねた。
私と出会ってから、姫様は本当に色んな目に遭った。
中でも信頼していたイダジンの裏切りは彼女の精神を大きく傷つけただろう。
なので、姫様のその表情に心底安堵した。
「エメです。ようやく名乗れましたね。本当に良かったです」
私も出来るだけの笑みを浮かべた。
「シスター、これから貴方のことをエメと呼んでも構いませんか?」
「ええ、勿論です姫様」
「ではエメも私のことをクラリスとお呼びください。勿論、《《様》》をつけてはいけません」
姫様の言葉に思わず目を丸くする。
「姫様、それは無理です!?そんな恐れ多いことは出来ませんよ!」
慌てて、姫様の無茶ぶりを否定した。
「いいえ、ダメです。これはインナリィ王国の姫である私の命令です」
と悪戯っぽく姫様が言った。
「えっー」
困った表情で語尾を伸ばす。
すると私と姫様の会話を横で聞いていたカリオスさんが突然笑い出した。
「クラリス様の命令とあれば従うほかありませんねエメさん?命令に背けばインナリィ王国を敵に回す恐れがありますし、そうなれば転勤どころではないですよ」
カリオスさんがそんな意地悪なことを言う。
ちゃっかり転勤のことも言われて、私の顔はおそらく真っ赤だ。
「…分かりました。ちゃんとこれからはクラリスと呼びます」
白旗を挙げてそう答える。
「あら、敬語も駄目ですよ」
姫様のダメ出しに思わず心中で嘆く。
勘弁してくれ…
私の困った表情に姫様…いや、クラリスとカリオスさんが和やかに笑っていた。




