近づくなこのハゲ
私の言葉に安心した表情を浮かべた姫様が魔法陣から出て私のところへと歩いてくる。
その瞬間、魔法陣が自ずと消えた。
そして、私も姫様の方へと歩み寄る。
すぐに姫様の後ろに回り、手首の縄を解いた。
「あの漆黒の魔女を消してしまうなんて…あなたは本当にただのシスターなのですか?」
私の方を振り返った姫様が唖然とした表情で私を見つめる。
その質問に少し困った表情を浮かべた。
「かつてインナリィ王国が漆黒の魔女によって窮地に立たされたと教えを受けてきました。だから、封印を必ず解かれないように王国は管理してきたのです。それがどういう訳か封印が解かれて…いえ、今はそんなことより、それほどまでに恐れられていた漆黒の魔女を再び封印するどころか、いとも簡単に倒してしまうなんて…」
姫様が動揺しながら喋る。
…まあ、無理もない。
インナリィ王国にとっては漆黒の魔女は魔王よりも恐れられていた存在だ。
それをあんな数秒で片付けてしまったら、そりゃ理解出来ないだろう。
「…なんか、すみません」
修道服のベール越しに頭をポリポリと掻きながら、そう答えた。
「あっ!?違うのです!決してあなたを責めている訳ではないのですよ!ただ、あまりに突然のことに驚いてしまって…私は命の恩人になんて失礼なことを…!?本当にごめんなさい!」
姫様が慌てて、私に頭を下げた。
「頭を上げてください姫様。私は何も気にしてませんから…」
と姫様に頭を上げるよう促した。
インナリィ王国の姫に頭なんか下げられたら、たまったもんじゃない…
私の言葉に姫様が頭をゆっくりと上げる。
すると突然、背後から拍手の音と共に声が聞こえてきた。
「素晴らしい!本当に素晴らしいぞシスター!」
振り返ると、大臣が拍手をしながらこちらに近づいてきていた。
いつのまにか大臣の手首の縄も解けていることに気づく。
おそらく私が漆黒の魔女と戦っている間にどさくさに紛れて、自分で縄を解いたのだろう。
「まさかあの漆黒の魔女を倒してしまうなんてな!よくぞ姫様を守ってくれた感謝するぞ!」
大臣が偉そうに自由になった手で私の肩をバンバンと叩いた。
「イダジン!?良かった無事だったのですね…」
大臣の元気そうな姿に姫様が安堵の表情を浮かべる。
「姫様もよくぞご無事で…」
大臣がそう言って私から離れて、姫様に近づこうとした。
私はそれを手を伸ばして遮る。
「…ん?何をするんだシスター?」
大臣が怪訝な表情で私を見上げる。
「シスター?」
姫様が私の行動を不思議そうに見ていた。
構わず、私は冷たい視線を大臣に向ける。
「姫様に近づくなこのハゲ」




