詠唱は不要
私の言葉に漆黒の魔女が顔を顰めて、何か私に言おうと口を開く。
でも、そんな時間は与えない。
既に漆黒の魔女へと勢いよくぶん投げていたロザリオが彼女を襲う。
それに反応すら出来なかった漆黒の魔女がロザリオに押されて後方の壁へと激突した。
その衝撃で洞窟内が激しく揺れる。
漆黒の魔女が声にならない声を上げた。
漆黒の魔女はロザリオの十字の直角に挟まれる形で洞窟の壁に貼りつけになっている。
私はロザリオを投げたと同時に追いかけるように漆黒の魔女へと向かって走り出していた。
なので、漆黒の魔女が壁に張り付いた瞬間、私は彼女の目の前に立っていたのだ。
そして、間髪入れずに身動きが取れない彼女へと手を翳す。
私に詠唱は不要だ。
「ホーリーインパクト」
そう呟いた瞬間、物凄い血相の漆黒の魔女を包み込むように白い光が広がり出し、たちまちこの空間をも飲み込んだ。
この空間にいた姫様やあのハゲ大臣も勿論この光に包まれる。
だけど、この聖魔法は光魔法とは違って対魔族用なので、普通の人間には無害で少し眩しいくらいだから問題はない。
やがて、白い光が徐々に薄れていく。
完全に光が消え去った時、洞窟内は再び松明の灯りが照らされた空間へと戻る。
そして、目の前の壁にはロザリオが突き刺さっているだけで、そこには漆黒の魔女の姿はなくなっていた。
私は壁にめり込んだロザリオを両手で掴んで、壁に右足を付けながら、力いっぱい引き抜く。
「ふんぬ!」
壁から離れたロザリオはすぐに小さく縮小していく。
再び元の大きさになったロザリオを首から掛ける。
いつもなら元に戻っていいよと私が言ってから戻るのに対して、今回は自らの意思で戻ったように感じた。
…流石にぶん投げたのは不味かったな?
漆黒の魔女にロザリオの力に頼っている的なニアンスで言われて思わずムッとしてしまって、気づいたらロザリオをぶん投げてしまっていたのだ。
以前、今回と同じようにロザリオを雑に扱った時はしばらく全く反応を示してくれなかったことを思い出した。
そっと胸のロザリオを優しく撫でる。
「…ごめん。そして、お疲れ様」
胸元に視線を落としてそう呟いた。
「シスター!一体、何が起こったのですか?漆黒の魔女はどこに!?」
ロザリオに触れていると後ろから姫様の声が聞こえて、すぐに振り返る。
姫様は動かないでと私が言ったことを忠実に守って、しっかりと魔法陣の上に立っていた。
「もう、動いて構いませんよ姫様。漆黒の魔女は消滅しました。安心してください」




