ゴブリンとして転生させる力
タオカモイを出たところで、オーリュウがアンネの姿を元に戻した。
「ありがとうございます」
アンネがオーリュウに笑顔を見せる。
「いえ、全てはドシーの我儘のせいですから。それにしてもドシーがあんなことを言い出すなんて…すっかり人間界に馴染んでしまいましたね」
オーリュウがため息を漏らす。
「いいことではありませんか?私も魔界に対するイメージが行く前と後では随分と変わりました。それはとても良いことだと私は思っています。人間と魔族の全ての者が分かり合えることありません。同族であっても争いが起こるのですから、当然ですよね。でも、一部の人間と魔族がドシーさんのように分かり合えれば、少しでも素敵な世界になると思うのです」
アンネの言葉に思わず固まる。
私の推しは、私のイメージしていたよりもはるかに素晴らしい思想の持ち主だったからだ。
流石は我が推し。
「そうですね。私もそうなって欲しいと思います」
オーリュウがアンネに優しい表情を見せた。
「…でも、ドシー様はあくまでアンネさんの姿だからこそ町民は受け入れているだけで、正体を知ったら分かりませんよ?」
と馬鹿タレ勇者アルテガがこの雰囲気に水を差す。
気づいたら、私の靴底が馬鹿タレ勇者の顔面を捉えていた。
◯
馬鹿タレ勇者に制裁を加えたあと、オーリュウの魔法で再びインナリィの森の中へとやってきた。
ここから、森の中を歩いてワイコライズの町を目指す。
インナリィの森を抜けて、インナリィ城下町へ行く間にワイコライズの町がある。
ただし、それはインナリィの森を正しく抜けた場合のことだ。
森を適当に抜けると全く違う場所へと行ってしまう。
それだけインナリィの森は広い。
まあ、私もインナリィの森については熟知しているし、先頭を歩くオーリュウもインナリィ領は把握している様子だ。
…しかし、このインナリィの森に生息していたゴブリンたちが自ら今回の騒ぎを起こしたのだろうか?
それとも、他の誰かがゴブリンたちを利用しているのだろうか…?
分からないが、神父様が仰っていた色付きのゴブリンたちが鍵なのは間違いない。
歩きながら、今回の騒動について考えていると、オーリュウが私の方を振り向いた。
「…こんな話を聞いたことがあります。ゴブリンは知能は低く戦闘力も弱いですが、一部の限られたゴブリンにはある力があるそうです」
オーリュウが歩きながら、私に話す。
勿論、私の隣を歩くアンネと私の後ろをついてくる顔に靴跡があるアルテガもオーリュウの話に耳を傾けていた。
「…ある力?」
オーリュウに訊いた。
「はい…なんでもこことは別の世界にいる者をこの世界にゴブリンとして転生させるという力です」
オーリュウの話に思わず、なんじゃそりゃとなった。
…転生?
そんな都合の良い話なんてあるの?
死んだらそこで終わりでしょ?
…って神に仕えるシスターが思っちゃ駄目か?
「…別の世界からゴブリンに転生した者は通常のゴブリンたちとは違う特徴があるという噂を聞いたことがあります。そして、転生させた者はゴブリンたちにとって有益な存在になるとも…」
オーリュウの話に今回の騒動の発端がなんとなく見えてきた。
「…なるほど。その特徴は肌の色ですね」
と言うとオーリュウがこくりと頷いた。
「だから、魔法じゃない力を使うのか…こりゃ厄介だな」
と鼻から息を漏らす。
「…転生ですか。これまた奇想天外な展開ですね?もし、転生するなら姉御はどんなものに生まれ変わりたいですか?」
と突然、アルテガが私に変な質問をする。
そんな非現実な話をされてもなぁ…
…でも、もし転生するなら逆ハーレム状態になるようなのがいいな。
それも私好みのイケメンだらけの…
「…エメさん。ヨダレが出てますよ?」
と隣を歩くアンネに指摘されて、慌てて袖で拭う。
「…馬鹿タレ。私はそもそも転生なんて信じちゃいないつーの」
後ろのアルテガを睨む。
「…でも、オーリュウ様の話を聞くと、今の状況には当て嵌まりますね?」
とアンネが言う。
「…まあね。とはいえ、私は自分のこの目で確かめるまでは転生なんて信じられないかな」
と少しでも逆ハーレムを望んだ自分を掻き消した。




