ワイコライズの町
シスターたちにオーリュウとドシーのことをちゃんと話してから私たちは礼拝堂をあとにする。
納得はしてもらえたかどうかは分からないが、少なくとも魔王幹部であるドシーがいたおかげでタオカモイが無事だったことは理解してくれたようだ。
とりあえず、出発する前に支度をしないといけない。
と私は自分の部屋へと向かおうとした。
「…姉御の知り合いは魔族だったんですね?しかも、魔王幹部って…」
礼拝堂を出てすぐにアルテガに修道服の裾を掴まれる。
「そうよ。怖気ついた?」
と笑みを浮かべた。
正直言って、アルテガがこの先役に立つとは思えない。
なら、付いてこなくなる方が私には好都合だ。
「…いえ、その逆です」
「はっ…?」
アルテガの返答に思わず怪訝な表情を浮かべる。
「やっぱり姉御は最高です!魔王幹部ですよ!勇者の天敵であるあの魔王の直属の部下である魔王幹部!それを従えているなんて姉御は流石ですよ!」
とアルテガが興奮して騒ぎ出す。
すぐに自分の口元に人差し指を当ててた。
「…静かにしろ。魔王とか魔王幹部とか大きな声で騒ぐな馬鹿タレ…」
と注意すると、慌ててアルテガが自分の口を両手で塞ぐ。
「…従えてなんていない。ただ、訳あって協力してくれるだけだ」
と大きなため息を吐いた。
「そうなんですね。まあ、どちらにしろ姉御が凄いことは分かりました」
アルテガが納得して頷いた。
…ほんとかよ?
「で、どちらに向かわれるんですか?まさか、いきなり敵地に乗り込む気じゃ…?」
アルテガが目を見開いた。
「な訳ないでしょ?とりあえずはインナリィ城に一番近い町のワイコライズに行ってみる。アンタはここに残りなさい」
「えっー、嫌ですよ。俺も姉御たちと一緒に行きます。ワイコライズに行くなら俺を連れて行って損はありませんよ?」
とアルテガが胸を張って言った。
「…どういうこと?」
「以前、ワイコライズの近くで魔物が出て、たまたま通りかかった俺がその魔物を退治したんです。だから、その町人にはよく思われている筈ですよ」
アルテガの話に本当かよと疑いの目を向ける。
「…姉御もしかして疑ってます?大丈夫ですよ嘘じゃないですってば。突然現れた割と強そうな魔物に襲われて、必死に魔法を唱えたら、たまたまヒットして倒せたので」
アルテガが説明する。
「…なんじゃそりゃ。町が襲われないよう魔物を退治したんじゃないのかよ…」
「そんな勇気ありませんよ。そんなの姉御が一番よく分かっているでしょ?」
と意味が分からないことをアルテガが言う。
いやいや、お前は勇気がある者と書いて勇者だろ?
「…まあ、いいや。なら、仕方ないから連れて行ってやるか…でも、町が安全とは限らないことは覚悟はしておいて」
「ありがとうございます!大丈夫です。姉御もいるし魔王幹部のオーリュウ様もいるんですよ?安全じゃなくても安全ですよ」
とアルテガが気楽なことを言う。
…ていうか勇者が魔王幹部がいることに頼ったら、もう終わりだろ。
と冷ややかな目でアルテガを見る。
「じゃあ、ちょっくら支度してくる」
とようやくアルテガから離れられた。
自分の部屋へ行くと、既に支度を終えたアンネがちょうど部屋から出てくる。
小さ目の鞄を肩から提げていた。
「あっ、エメさん。荷物ってこれくらいでいいですか?」
とアンネが肩から鞄を下ろして、私に中身を見せた。
「うん、これくらいでいいと思うよ。今回は特に戦闘に巻き込まれる確率は高いから、荷物は少な目でいいかな」
「ありがとうございます。エメさんが支度を終えるまで、ここで待ってますね」
とアンネスマイルが炸裂する。
ああ、推しの笑顔は最高だ…まして、さっきまで見たくもないものを見せられていたから、なお際立って見える。
部屋に入って支度を済ませ、アンネと一緒に教会の入り口の広間へと向かう。
すると、既に全員が私たちを待っていた。
「準備は整いましたか?」
神父様が私たちに訊ねる。
「はい、大丈夫です」
と答えると、神父様が私に近づいてきた。
そして、小袋を私に手渡す。
「少ないですがお金が入っています。まあ、こんな状況なので使い道があるかは分かりませんが、役立ててください」
「ありがとうございます」
神父様のご厚意に感謝してお礼を言う。
「まずはどうするのですか?」
神父様が私に訊いた。
「とりあえずワイコライズの町に行ってみます。そこで情報を得られたらいいのですが…既にゴブリンたちに攻め込まれている可能性もありますのでなんとも言えません」
とオーリュウに視線を向ける。
「…まあ、その時はその時でまた考えましょう。あっ、神父様とお話していたのですが、町を出る時はアンネさんにドシーの姿になってもらいます。よろしいですか?」
オーリュウがアンネに訊ねた。
アンネが町を出ていく姿を見たあとで、アンネの姿をしたドシーが町にいれば、町民も戸惑うからだろう。
「はい、大丈夫です。お願いします」
アンネがすんなり受け入れる。
オーリュウがアンネに手を翳すと、魔界へ行く前みたいにアンネがピンク色のほわほわ頭のドシーの姿になった。
ドシーの姿と言っても、オーリュウみたくあくまで見た目は人間だ。
「では、くれぐれもこの町を頼みましたよドシー?」
オーリュウがアンネの姿のドシーに向かって言った。
「頼まれましたよオーリュウ様」
とアンネの姿と声でドシーが答える。
「じゃあ、行きましょうか?」
と私がみんなを促した。
そして、神父さまとドシーとシスターたちに教会の入り口で見送られて、私とドシーの姿をしたアンネとオーリュウと共にインナリィ城の近くにある町、ワイコライズを目指す。
…あっ、アルテガもいたんだ。
とチラッと一番後ろを歩くあほ面を確認した。
本当に役に立つのかコイツ…?
と不安を覚えた。




