頑固アンネ
「ところで神父様。ゴブリンたちによってインナリィ城が占拠されたんですよね?姫は…クラリスは無事なんですか?」
そうだ…インナリィ城下町と城が襲撃されたと聞いた時から、ずっとそれが心配だった。
「…分かりません。インナリィ城が襲撃されてゴブリンたちに占拠された話はインナリィ城下町からタオカモイに逃げてきた家族に聞きましたが、その家族も逃げるのがやっとで王様や姫の安否までは分からないそうです」
神父様の答えにそりゃそうかとなる。
…仕方ない直接、確認しに行くほかないか。
でも、私がタオカモイを出てしまえば、このタオカモイをゴブリンたちから守る者がいなくなってしまう…
三日前のゴブリンたちの襲撃はたまたまドシーとアンネが入れ替わっていたから町を守れた。
…やっぱり、私はここに残るしかない。
と黙って悩んでいると、オーリュウがスッと立ち上がった。
「エメさんはインナリィの姫様を探しに行って下さい。その間、この町は私が守りますから」
オーリュウが私に向かって言った。
「えっ!?オーリュウ様が!?いえいえ、そんなことをさせる訳にはいきませんよ!」
私も立ち上がって、首と手を必死に横に振る。
「エメさんには大変お世話になりました。なので、せめてこれくらいはさせてください」
「…オーリュウ様」
となんとも有難い申し出に思わず甘えたくなるが、あくまでオーリュウは魔族で魔王幹部だ。
当然、神父様の了承が必要である。
と神父様に視線を向けた。
「…一度、ドシーさんに守って頂いている以上、私がそれを拒む理由なんてありませんよ」
神父様の返事に思わず笑みが溢れた。
「ありがとうございます。オーリュウ様、神父様。これで、クラリスを探しに行けます」
と喜んだ。
「私も同行します」
スッとアンネが立ち上がり、そう宣言する。
「は…?」
アンネの台詞に思わず固まる。
「駄目ですアンネさん。今回ばかりは危険すぎますよ?ドシーさんと入れ替わった件も本来なら咎めるべき行為です。たまたま、それがタオカモイのためになったから、いいものの…あなたは自分の発言の愚かさが分かっていません」
と神父様がお怒りだ。
でも、頑固アンネはこれくらいでは引き下がらない。
「いいえ、神父様。ドシーさんは元の姿には戻りたくないと仰っています。もっと、町の人と私として接したいのではないでしょうか?私が今、この町に留まることはドシーさんの望みを叶えてあげられませんよ?だって、私が二人いたら、みんな混乱してしまいます。なら、私がエメさんについて行っている間はドシーさんの願いを叶えて差し上げられるじゃないですか?ドシーさんはこのタオカモイの恩人です。その方の望みを聞くのは恩返しになりませんか神父様?」
アンネの饒舌にドシーが立ち上がって、こくこくと頷く。
恐るべしアンネ…
…にしてもアンネが二人いるから非常にややこしい絵になっとる。
今だけでも、ドシーに元の姿に戻って欲しいものだ。
「…それは屁理屈というものですアンネさん。私が指摘しているのはあなたがエメさんについて行くデメリットのことを言っているのです。あなたが行くことで、エメさんの足手まといになるし、まして危険が伴います。あなたが行くメリットなんてエメさんにとってはないのですよ?」
神父様が負けじと応戦する。
推しと一緒にいくこと自体は私のメンタルはプラスに働くので、まあメリットがないわけでもない。
…が口が避けても今の場面では言えないな。
「…回復魔法なら使えます。それにインナリィ城の人たちの助けになりたいのです。このタオカモイはずっとインナリィ王国によって守られてきました。インナリィがこうなった今、今度は私たちが王国に力を貸す時ではないのですか?」
とアンネが反撃する。
流石は我が推し…
神父様が思わず苦虫を噛み潰したような顔をした。
すると、オーリュウが急に笑い始める。
「…オーリュウ様?」
思わず首を傾げた。
「…すみません。あまりにアンネさんが勇ましいものでつい…短い間ではありますが、私はアンネさんを見てきました。少なくとも、単なる足手まといになる方ではありませんよ神父様?」
とオーリュウがアンネの味方をする。
「オーリュウ殿…」
神父様が困った顔を浮かべた。
「では、こうしましょう。私がエメさんとアンネさんについて行き、アンネさんを全力で守ります。元はと言えば、全てはドシーのせいですからね。ドシーは引き続きアンネさんとしてこのタオカモイを守らせます。それでどうでしょう?」
オーリュウがとんでもない提案を神父様に投げかける。
神父様は少し困った表情で考えたあと、大きなため息を吐いた。
「…エメさんはそれで構いませんか?」
神父様が私に問いかける。
「…私はオーリュウ様がついて来てくださるなら問題はないと思います」
私の返答に隣に立つアンネが喜び、その隣にいたアンネの姿をしたドシーが喜び出す。
だから、ややこしいってば…
「ドシー。我儘を言うからにはちゃんとこの町を守るんですよ?いいですね?」
オーリュウがアンネの姿のドシーに釘を指す。
「分かった、任せてくれ。ワガママなオーリュウ様の頼みだ。絶対に町は守る」
と自信満々にドシーが答えた。
「…我儘なのはあなたで、私ではありませんよドシー」
とオーリュウ様が頭を抱える。
「ち、ちょっと待ってください!」
突然、後ろで黙って立っていたアルテガが急に発言しやがる。
「…何?」
と冷ややかな目を向けた。
「…姉御たちがさっきからずっとオーリュウ様とかドシーさんって言っていますが…もしかしてあの魔王幹部のオーリュウとドシーのことですか?」
あっ…しまった…
と思わず顔を顰める。
なんちゃって勇者のくせに知ってやがったか…
「そうだ。私は魔王幹部のドシーだ」
とドシーが受け入れてしまう…
その瞬間、アルテガとシスターたちの大きな悲鳴が礼拝堂に響き渡る。




