魔法じゃない
タオカモイに到着後、二人のアンネを連れて教会に移動した。
守衛のおじさんにはあとで神父様が説明してくれるようだ。
何かと混乱している勇者は放置でいい。
町に人が全く出歩いていなかったおかげで、アンネが二人いるところは誰にも見られなかった。
けれど、こんな日中に誰も出歩いていないということは、きっとそういうことだろう。
…まあ、詳しくは神父様が語ってくれる筈だ。
教会に入るとエレン、マリアーナ、ローザが私の帰還に喜ぶも、すぐに二人のアンネに驚いていた。
…そりゃそうなるわな。
こうなった以上、アンネのこともちゃんと話さないといけない。
とりあえず、神父様の話を聞くため、私たちは礼拝堂へと集まるが、先に荷物を部屋に置いてきた。
その間、アンネの姿のドシーとアルテガは食堂でジュースを飲んでいたらしく、満足気に食堂から出てきたアルテガを思いっきり睨んでやる。
礼拝堂に全員が集まったところで、神父様の話が始まった。
私とアンネ、オーリュウとアンネの姿をしたドシー、シスターたちがチャーチチェアに座っている。
話をする神父様と私の怒りを買ったアルテガは立っていた。
「エメさんがタオカモイを出てから五日ほど経った時でした。ゴブリンの軍団が突然インナリィ城を襲撃したのです。そして、たちまちインナリィ城はゴブリンたちによって制圧されてしまった。インナリィにゴブリンが生息していたのは知っていましたが、正直言って脅威になるとは誰も思っていなかったでしょう…」
神父様が頭を抱えた。
「そして三日前、そのゴブリンたちの一部がこのタオカモイにもやって来ました」
神父様の話に町の近くの林道にあった足跡を思い出す。
「ゴブリンたちはインナリィ城で手に入れたのか、武器と防具を身につけていました。そして、一斉に襲ってきたのです」
神父様がアンネの姿をしたドシーへと視線を向ける。
「ですが、アンネさん…いえ、ドシーさんが我々をゴブリンたちから守ってくれました」
と全員がアンネの姿のドシーに目を向けた。
「そうだ。全部蹴散らしてやったんだぞオーリュウ様。褒めて」
未だアンネの姿のドシーが隣に座るオーリュウにえっへんと胸を張る。
「…ゴブリンくらいいくら武装していようが、大したことないだろう?」
と私たちの後ろに立っていたアルテガが発言する。
それを聞いたドシーが立ち上がり、アルテガを睨んだ。
思わずアルテガが怯んで後ずさる。
「…いえ、単なるゴブリンなら我々でもなんとかなったでしょう。そもそも、普通のゴブリンたちが束になったところでインナリィ兵や魔術師たちに勝てる筈がありません」
神父様の話にこくりと頷く。
そりゃそうだ…カリオスさん率いるインナリィの魔術師たちが負けたんだ…ただのゴブリンたちの筈がない。
「ピンク色と青色のゴブリンのせいだと思う」
ドシーが立ったままそう言った。
「ピンク色…青色?」
と首を傾げる。
「ええ、通常ゴブリンの肌の色は緑色ですが、そのピンク色と青色の肌をした二体のゴブリンが他のゴブリンたちを指揮している感じで、その二体だけ特殊な力を使っていたんです」
神父様がドシーの言葉を補填するように語る。
「…特殊な力?」
と神父様に訊いた。
「…ええ、ピンク色は手を使わずに大きな岩を動かしていいて、青色は自分や仲間のゴブリンを瞬時に移動させる力があるようです。ゴブリンたちがドシーさんの力に圧倒されて逃げる際も、その青色のゴブリンがたくさんいたゴブリンたちを一瞬でどこかへワープさせたように見えました」
…移動魔法?
いや…一度に大量のゴブリンをワープさせる移動魔法なんて聞いたことがない。
「ドシー。あなたはその二体のゴブリンたちと戦ったのですよね?どうでしたか?」
オーリュウが隣に座るアンネの姿をしたドシーに訊いた。
「ピンク色のゴブリンが私に何かをしてきて、私のカラダがグッと引っ張られそうになった。でも、力を使って無理矢理逆らった」
ドシーが思い出しながら語る。
「あれは魔法じゃない」
ドシーの言葉に思わず固唾を飲む。
「…魔法じゃない!?」
と声を上げて困惑する。
「…なるほど、その緑色ではないゴブリンたちが、どうやら今回のゴブリン騒動に絡んでいるということですね?」
オーリュウが顎に手を当てて、真剣な表情を浮かべた。
「…あの?ところでそろそろシスターアンネが二人いることを教えて貰えませんか?もしかして双子とか…?」
後ろで立っているアルテガが恐る恐る質問する。
その質問にエレン、マリアーナ、ローザのシスターたちも賛同するように頷く。
…そういえば忘れてた。
「ドシー。いつまでアンネさんの姿でいるつもりですか?そろそろ変身を解きなさい。アンネさんが戻ってきた以上はもうその格好は必要ないでしょう?」
とオーリュウが言うも、ドシーは首を横に振った。
「やだ。この姿気にいっているから、しばらくこのままがいい。この姿だから町の人も話しかけてくれる。変身解いたら嫌われる」
とドシーが駄々を捏ねる。
その様子にますますシスターたちが困惑していた。
…こりゃ、しばらくは大変だろうなと心中でオーリュウを哀れんだ。




