二人のアンネ
ゴブリンたちの足跡を見つけてしまった私たちは急ぐように視線の先にあるタオカモイに向かった。
どうか、無事でいてくれ…
と町の人たちの安否を祈る。
タオカモイの入り口まで来ると、遠目に誰も守衛が立っていないことが分かった。
そのことに更に不安が募る。
「…エメさん」
私の不安を感じ取ったのか、アンネが不安そうな目で私を見た。
「…大丈夫。とにかく町へと入ろう」
とアンネの肩に手を置いた。
すると、アルテガがスッと前へと出て、額に手を当てて町を眺める。
「やけに静かですね?町に誰もいないんでしょうか?」
とふざけた台詞を吐いた。
すぐに後ろから勇者アルテガの頭を殴る。
「不安を煽るような発言をすんな!」
と怒りのあまり、つい殴ってしまった。
「痛いですよ姉御…俺は本当のことを言っただけで…」
アルテガが頭を抱えながら、目に涙を浮かべる。
…本当のことだから尚更駄目なんだよ。
とアルテガを睨んだ。
「…勇者様の言う通り、やけに静かですね?でも、町に人がいないってことはないと思いますよ」
とリュウが町を指差して言った。
町の方をよく見ると、静かだが町の家の煙突からいくつかの煙が見えている。
「…本当だ。どうやら町のみんなは無事みたいね」
とまだ分からないが、少しだけ安堵する。
「まあ、とにかく行ってみましょう」
リュウの言葉に頷いた。
町の入り口に辿り着き、中の様子を窺う。
町の中を誰も歩いていない…
…やっぱりゴブリンに襲われたのか?
と不安が込み上げてきた時、入り口付近の家の扉が急に開いた。
「おっ、エメさんか!?入り口に人影が見えたから、驚いたよ」
といつもこの町の守衛をしているおじさんが槍を手に家から出てきたのだ。
そのことに安堵する。
「すみません。どうやら驚かせたみたいで…たった今、出張から帰ってきました」
…魔界への出張からね。
「そうだったのか…そいつはお疲れ様。ん?あれ…?何でアンネちゃんも一緒なんだい?てか、いつの間に町の外へ?」
守衛のおじさんがアンネに顔を近づけて驚いていた。
…その反応にどうやらドシーはずっとアンネになりきったままなのだと悟る。
「これはその…そうです!こっそり町を抜け出してエメさんを近くまで迎えに言っていたんです」
とアンネが必死に誤魔化す。
「…こんな危険な時に?まあ、でもアンネちゃんなら平気だよな」
と守衛のおじさんが納得した。
おじさんの台詞に二度引っ掛かる。
こんな危険な時…?
アンネなら平気…?
と心中でどゆこと?と思っていると、町の奥から誰かがこっちに向かって歩いてきた。
「神父様!」
思わず声を上げる。
そして、更に神父様の後ろに誰かがいた。
アンネだ。
…いや、正確にはアンネの姿をしたドシーである。
「アンネちゃんが二人!?どうなってんの?」
守衛のおじさんがアンネを見比べて驚いている。
「おかえりなさいエメさん。お疲れ様でした」
神父様が私の前で立ち止まり、そう言った。
アンネを見ても驚いていない様子に、どうやら神父様はアンネがドシーだということに気づいているようだ。
「ただいま帰りました。神父様」
色々と聞きたいことは山ほどあるが、とりあえずにこやかに挨拶を交わす。
「アンネさんもお疲れ様でした。まあ…言いたいことはありますが、今は疲れを取る方が先です」
と神父様が寛大なことを言う。
「…申し訳ありませんでした」
アンネが深々と頭を下げた。
「…アンネさんが謝る必要なんてありませんよ。ねぇ、ドシー?」
リュウがもう一人のアンネ…ドシーに向かって言った。
「うん、アンネが謝る必要なんてない。謝るのはオーリュウ様だから」
とアンネの姿と声でドシーが答えた。
「…何で私が謝るんですか?謝るのはあなたですよドシー…」
とリュウ…いや、もうオーリュウって言っちゃってるか…オーリュウが呆れてため息を吐く。
「何でだ?私はたくさんいいことをしたぞ?」
とドシーが胸を張る。
私たちのやり取りを守衛のおじさんが口を開けたまま、何が何やら分かっていない様子だ。
そして、もっと混乱しているのはオーリュウの後ろに立っている勇者だった。
その顔がもはや意味不明だと物語っていた。




