ゴブリンの足跡
「タオカモイまで割と距離がありますよね?やっぱり森を抜けて馬車で行くんですか?」
顔に足跡を二つ付けたアルテガが私たちに訊ねた。
歩く選択肢を選ばず、すぐに馬車と言う時点で日頃のコイツの堕落振りが窺える。
…勇者なら少しは足を使いやがれ。
と私が苛ついていると、オーリュウ…おっとアルテガの前ではリュウだった…
そのリュウが私に目で何かを訴えていた。
おそらく、行きみたいにリュウの魔法でタオカモイに戻ってもいいかということだろう。
…まあ、アルテガがいるからと言って、わざわざタオカモイまで歩くのは流石に遠い。
それに今は出来るだけ早くタオカモイに戻りたい。
とリュウの視線にこくりと頷いた。
「私の魔法でタオカモイの近くまでワープします」
リュウがアルテガに答える。
「えっ!?そんなことが出来るんですか?流石は姉御のお知り合いですね!」
アルテガが歓喜の声を上げた。
「アンタは歩いて行くんだよ」
と冷たく言い放つ。
「えっー!?それは酷くないですか?」
アルテガが不満な顔で私に訴えかける。
酷くない。
そもそも私はアンタを連れて行きたくなんてないんだよ…
と冷たい視線をアルテガに送り続けた。
「エメさん。それでは勇者様があまりに可哀想です」
アンネが私にそう言うと、アルテガがそうだそうだと頷く。
…マジでうざい。
「コイツを甘やかしてもいいことないよアンネ?てか、コイツに勇者様は勿体無いから、呼ばなくていいよ。勇者と言ってもロクにその使命を果たしていないんだからね」
私の台詞にアンネがアルテガを見た。
アルテガが必死に首を横に振っている。
「まあまあエメさん。ここはみんなでワープしましょう。こうしている間にもさっきのゴブリンたちが仲間を連れてここに戻ってくるかもしれません」
リュウが私を説得する。
…その通りだ。
私が駄々を捏ねている場合じゃない。
「…分かりました。オー…じゃなかったリュウさんがそう仰るなら…」
と諦める。
すぐにアルテガが喜ぼうとしたので、先に睨んで止めた。
「では、早速タオカモイに向かいましょう」
リュウが地面に向かって手を翳す。
すると、地面に魔法陣が浮かび上がる。
おいおい…アルテガの前で詠唱なしで魔法を使うなよ…
とすぐにアルテガの反応を見た。
しかし、詠唱なしという凄さに気づいている様子はない。
…コイツがなんちゃてで良かった。
と安堵する。
「さあ、皆さんこの魔法陣の中へ入ってください」
とリュウが魔法陣の中に入りながら言った。
そして、私とアンネが魔法陣の中へと入る。
そのあとでアルテガが魔法陣の中へ入ってきた。
すると、なんとか全員が魔法陣の中に収まるのがやっとだった。
…狭い。
アルテガがアンネに引っ付くように立っていたので、手を伸ばして引き剥がす。
「姉御何するんですか!?倒れますって!やめてください!」
アルテガが悲鳴を上げる。
その瞬間、辺りの景色がパッと変わった。
リュウの移動魔法でタオカモイの近くの林道までやって来る。
そのタイミングでアルテガが魔方陣の外に尻餅をついた。
私が押したからだ。
「酷いッスよ姉御…下手したら俺だけ取り残されてましたよ?」
アルテガが私を見上げる。
…私はそれを狙っていたんだよ。
と小さく舌打ちをする。
タオカモイの近くに来たこともあり、すぐにアンネが心配そうに町の方へと視線を向けた。
木々に覆われたタオカモイの町が見える。
ここから見る限りではゴブリンの襲撃を受けた様子はない。
「エメさん…」
リュウが私を呼んだ。
すぐにリュウの方へと視線を向けると、リュウが足もとを指差していた。
「…ゴブリンの足跡!?」
と思わず声を上げる。
林道にゴブリンの足跡がくっきりと残っていた。
しかも、大量に…
それはゴブリンの集団がタオカモイに来たということを示している。
私の声にアンネが心配そうな表情を浮かべた。
すぐにアンネの修道服のベールの上に手をポンと置く。
「…心配ないよ。大丈夫…きっと大丈夫だから」
とアンネの不安を取り除く。
「さあ、町へと急ぎましょう」
リュウの言葉に私とアンネ…そして情けなく尻餅をついたまま、ゴブリンたちの足音にビビっているアルテガがこくりと頷いた。




