姉御
「いやぁー探してたんですよ姉御。一体、どこにいたんですか?」
胸糞勇者アルテガが馴れ馴れしく近寄ってくる。
アルテガの顔面には私の靴跡がくっきりと付いていた。
魔界へのゲートがいつの間にか消えている。
おそらくゴブリンが現れた時にオーリュウが消したのだろう。
その事に安堵しながら、アルテガの質問に答える。
「…誰かさんのせいであの村にいられなくなったんだよ。ミーナか神父様に訊かなかったの?てか、探さなくていい…」
と深いため息を吐いた。
まあ、そのおかげで隣にいる推しと出会えた訳だから、コイツへの恨み節はこの程度にしておいてやる。
「しばらくしてから村を訪ねたんですが、何故か出禁になったみたいで…あの村は勇者に対しての敬意がないからダメですね」
とアルテガがお手上げポーズを取った。
…まあ、ドラゴンうさぎを無闇に殺した挙げ句、山の主のレッドドラゴンを怒らせたんだ。
そりゃ、出禁にもなるか…
下手したら村がレッドドラゴンの報復にあっていたかもしれないのだから…
その点は私の処分と似ている。
…でも、私の場合は全てコイツのせいだけどな。
とアルテガを睨んだ。
「エメさんと勇者様はどういうお知り合いなんですか?」
私とアルテガとのやり取りを隣で見ていたアンネが首を傾げた。
「一緒にレッドドラゴンを倒した仲です。ねぇ、姉御?」
「あっ?誰が一緒に倒したって?」
と怒りを込めてアルテガを睨む。
「…ち、違いました。レッドドラゴンにやられそうになったところを姉御に助けて頂いたんです。はい」
とアルテガが私に慄いてそう言い直す。
ていうか、さっきまでの偉そうな喋りはどこに行ったんだよ?
とにかく一刻も早く勇者の免許を返納しろっつーの!
「ところで勇者様はゴブリンたちによってインナリィ城が占拠されたことはご存知なのですか?」
オーリュウがアルテガに訊ねる。
そうそう、私もそれが聞きたかったんだ。
コイツとの思い出話に浸っている場合じゃない。
「勿論です。だって、その情報を得てここに来たのですから」
アルテガがオーリュウに対して急に敬語で話し出す。
「流石は勇者様。王国の危機に駆けつけたわけですね?」
オーリュウが拍手をする。
すると、私が左手を大きく左右に振った。
「違う違う。どうせアンタのことだ。相手がゴブリンなら余裕だと思ってノコノコとやって来たんだろ?」
私の見解にアルテガが図星だという顔を見せる。
「…姉御には敵わねーや。そうです。相手がゴブリンなら俺でも倒せるかなって思って…」
アルテガが頭をポリポリと掻いた。
「な訳ないでしょうが…インナリィ王国の魔術師たちが負ける程の相手なのよ?単なるゴブリン集団の訳がない」
とアルテガの浅はかな考えに思わずため息を吐いた。
「同感です。きっとゴブリン集団を導く何者かの力があるのだと私は思っています」
オーリュウが私の意見に同調する。
もしかしたら、ゴブリン集団についてアルテガに色々と聞けるかと思ったけど、この様子なら大した話は聞けそうにない。
適当にあしらって、さっさとコイツとおさらばしよう。
「…失礼ですが、お二人は一体誰なんですか?姉御のお知り合いか何かで?」
アルテガがオーリュウとアンネに訊ねた。
するとオーリュウがアンネにお先にどうぞとジェシチャーする。
「私はエメさんと同じタオカモイの町で働いているシスターのアンネです。よろしくお願いします勇者様」
とアンネスマイルが炸裂する。
がすぐに私がアンネの前に立ち、アンネスマイルをアルテガから守った。
…お前には推しの笑顔は勿体無い。
「私はエメさんの知り合いで、リュウといいます。今から三人でタオカモイに向かうところなんですよ」
と流石に勇者相手にオーリュウとは名乗らない。
オーリュウの言葉にアルテガの表情がパッと明るくなる。
「なら、俺も同行します姉御!」
アルテガが私に視線を向けた。
「いや、お断りします」
と即答する。
「えっー!!何でですか!?既にタオカモイにもゴブリン集団が攻めてきているかもしれないんですよ!?なら、俺も行った方がいいでしょう?この勇者アルテガ。姉御には及ばなくとも、力にはなれる自信がありますよ!」
とアルテガがしつこくついてこようとする。
…正直言っていらない。
ここに魔王幹部がいて、タオカモイにも魔王幹部がいる。
だから、アンタの出る幕はないんだよアルテガ…?
「…まあ、いいじゃないですかエメさん?こんなにあなたを慕っているのですから、一緒に来てもらいましょう。相手はゴブリンと言えども集団です。なら、こちらも一人でも多い方がいいですし」
とオーリュウが言った。
オーリュウの言葉にアルテガがうざいぐらい、うんうんと頷いている。
「まあ、リュウさんがそう仰るのなら、仕方ないから同行させますか…」
と嫌々、妥協する。
「やったー!ありがとうございます姉御!」
とアルテガが私に抱きつこうとしてきたので、その前に思いっきり足を上げて、靴底を再びアルテガの顔面にヒットさせた。




