インナリィの森
私とアンネの人間界へ戻る申請が下りたので、許可が出ている日の朝早くオーリュウと共にオーリュウの屋敷を出る。
屋敷を出る際にラストアがずっと私に深々と頭を下げていた。
それをアンネが寂しそうに眺めていた。
一週間以上もこの屋敷でいたんだ…きっと互いに情が芽生えていたのかもしれない。
まあ、二人が次に会うことはもうないだろう。
と思いながら、クナモテアの町の中をオーリュウにあとについて歩いていく。
オーリュウの屋敷の屋上から何度も眺めていたこの町ともお別れだ。
ドシーとアンネが入れ替わっていて、敵であるファーシルが堂々と屋敷に乗り込んできた。
ファーシルに裏切られてアンネが攫われ、トルケーリブの塔で七魔衆と戦い、戦いが終わった矢先にオーリュウの部下に襲われた。
今回も割と色々とあったな…
と感慨深い気持ちに耽っていると、アンネが私の修道服の裾をくいくいと引っ張った。
「エメさんアレ…」
アンネが小さな声で私に伝える。
おそらくオーリュウに気づかれたくないようだ。
なので、オーリュウに気づかれないようにアンネが指差す場所へとそっと視線を向けた。
オーリュウの屋敷の屋上だ。
すると、そこには私たちがよく知っている連中の姿があった。
中央に立つ魔族の女が大きく手を振っている。
おいおい…だからセキュリティはどうなってんだよ?
と思いながら笑みを浮かべた。
クナモテアの町を出てしばらく歩くと魔界に初めて来た時に出た場所である森へと辿り着く。
「足元に注意して歩いて下さい」
とオーリュウが舗装されていない道を先導しながら私たちに注意を促す。
私はともかく、アンネは足場の悪い森の中を気をつけながら歩いていた。
たまにアンネが躓きそうになる時は、隣で素早くアンネの身体を支える。
その度、アンネが顔を赤らめては私から少し距離を置いた。
離れたら躓いた時に助けられないってば…
と心中でため息を吐く。
やがて、前方に魔界に来た時同様に大きな時空の歪みが見えてくる。
様々な色がぐちゃぐちゃになっている何度見ても慣れない魔界と人間界を繋ぐ入り口に近づいていく。
「では、私から行きますよ?前にも言いましたが、絶対に私から離れないでください」
私たちにそう忠告してオーリュウが先に歪みへと入っていく。
すると、オーリュウの姿がスッと消えた。
それを見ていたアンネが僅かに顔を強張らせたので、アンネの手を掴み、一緒に歪みの中へと入る。
中へ入るとオーリュウが私たちを待っていた。
「さあ、行きましょう」
そう言って、オーリュウが歩き出す。
「アンネ。この中にいる間は絶対に手を離さないでね?分かった?」
私の言葉にアンネがこくりと頷く。
…そういや、魔界に来る時はアンネはドシーの姿だったんだっけ?
あれから、一週間以上経っている。
ドシーはタオカモイでちゃんとやれているのだろうか…?
流石にアンネではないことはバレているように気がする。
…それにゴブリンによるインナリィ王国襲撃が気になって仕方ない。
もし、その情報が確かなら、間違いなくタオカモイも襲撃に遭っている可能性がある。
…まあ、アンネとドシーが入れ替わったことにより、タオカモイに魔王幹部がいること自体は安心と言えば安心だ。
しばらく、地面の境目すら分からない時空の歪みの中を進んでいく。
そして、前を歩くオーリュウがピタリと歩みを止めた。
「着きました。さあ、人間界へ戻れますよアンネさん」
オーリュウが振り返ってアンネに笑みを浮かべた。
「はい、ありがとうございます」
とアンネスマイルが炸裂する。
思わず目を背けた。
オーリュウが前方に手を翳すと、そこから裂け目が現れた。
そして、裂け目から森の景色が見える。
オーリュウが先に裂け目を通っていく。
続いてアンネが、最後に私が裂け目を通る。
時空の歪みから出ると、森の中の景色が広がっていた。
魔界の森とあまり見た目は変わらないが、間違いなくここはインナリィの森だ。
やっと人間界に戻ってきた…と安堵の表情を浮かべているのはアンネだけだった。
「…エメさん?」
オーリュウが私に確認する。
「…はい、どうやら何かに囲まれていますね」
インナリィの森へと帰ってきた矢先、何かが私たちを取り囲んでいる気配を感じた。
魔界統括本部の情報通り、おそらく相手はゴブリンだ…
「…どうかしたんですか?」
私とオーリュウの反応に気づいたアンネが不安がる。
「…アンネ。私から絶対に離れないでね?」
と注意を促すと同時に、森の奥からたくさんの黒い影が動き出す。
それにアンネが悲鳴を上げた。




