良い知らせと悪い知らせ
翌日、私は何事もなかったようにラストアのおもてなしにあずかる。
朝食、屋敷内の散歩、昼寝、読書、温泉、夕食と私とアンネはもてなしを満喫していた。
夕食後、オーリュウが私とアンネを自分の部屋へと呼んだ。
なんとなくだが、オーリュウがどこか深刻な表情をしているように感じる。
私とアンネはオーリュウと向かい合ってソファに座った。
「…お呼び出しして申し訳ありません。エメさんとアンネさんにお知らせしないといけないことがあります」
とオーリュウが深刻に切り出した。
「…実は良い知らせと、悪い知らせがあって、先に良い知らせをお伝えしますね」
オーリュウの台詞に思わずえっ?となる。
「エメさんとアンネさんの人間界に戻る許可が下りました。明日にでも人間界に戻れますよ。本当は私のお城にも案内したかったのですが、結局この屋敷でとどまってしまいましたね…残念です」
とオーリュウが残念がる。
…いや、この屋敷でも充分すぎるほど豪華なのに、それ以上に豪華で広い場所なんて、正直言って行きたいとはあまり思わない。
でも、一応それは残念ですといった表情は見せておく。
「…で、悪い知らせとは?」
隣のアンネも私同様にそれが気になって、明日にでも人間界へと戻れるということを素直に喜べなかった。
「…実は魔界統括本部の情報によるとエメさんとアンネさんが魔界にやってきた直後くらいに、インナリィ城下町がゴブリンの群れに襲撃されました。そして、なんでもインナリィ城が占拠されてしまったようなんです。いや…インナリィ王国相手に勝つとなると、群れというよりは軍団ですね」
オーリュウの衝撃的な知らせに私とアンネが思わず声を上げた。
「…ゴブリンってあのゴブリンですよね?それがいくら軍団になろうが、あのインナリィ王国がゴブリン相手に負ける?インナリィ王国にはあの優秀な魔術師たちがいるというのに…」
脳裏にクラリスやカリオスさんの顔が浮かんだ。
「…タオカモイは?タオカモイの町はどうなったんですか?」
アンネが心配そうにオーリュウに訊ねた。
オーリュウが首を横に振る。
「…分かりません。インナリィ王国領にある町や村も被害は受けているとは聞いていますが、何より魔界での情報なので、正確なことまでは…申し訳ありません」
オーリュウが謝る。
「…オーリュウ様が謝ることじゃありませんよ」
と首を横に振った。
タオカモイの町にはドシーがいる。
オーリュウも心配な筈だ…
「…すみません。勝手なことばかり訊いて…」
アンネが反省する。
…仕方ない。
急にそんな話を聞いたら、そりゃタオカモイが心配になるだろう…
「…とりあえず明日の朝には魔界から出ていいという許可を魔界統括本部から得てますので、私と一緒にインナリィの森へと戻り、タオカモイの町へと戻りましょう。そして、何もなければ私はドシーを連れて魔界に戻ります。それにもしかすると相手が魔界にも人間界にもいるゴブリンなので、私やドシーも協力出来ることがあるかもしれません。もし、本当にゴブリンによる襲撃が各地で起こっているなら、いずれ魔界にも脅威が迫る恐れもありますしね」
オーリュウの話にこくりと頷いた。
本来、魔族であるオーリュウが人間界で戦うこと事体NGだが、相手がゴブリンなら話は別だ。
ゴブリンは魔族として扱われていないし、人間界にも魔界にも属さないモンスターとして扱われている。
だから、魔族がゴブリンを倒すことは人間界であっても問題ない。
…しかし、ゴブリンが何でそんなに強いかが問題だ。
まあ、それは人間界に戻り、インナリィ王国の者と接触して訊ねるしか他ない…
とりあえずは先にタオカモイに戻ることが先決だな。
「…ありがとうございますオーリュウ様。では、明日の朝出来るだけ早く戻ることでよろしくお願いします」
とオーリュウに頭を下げた。
「よろしくお願いします」
隣のアンネも私に倣う。
「…にしてもエメさんには休息がありませんね。大丈夫ですか?」
オーリュウが心配そうに私を見た。
たしかに…
まあ、立場上仕方ないかとは思う。
「…大丈夫です。もし現在、人間界で起きていることが世の中の均衡が壊れるような事態になれば、私以外の調律者が動く筈なんで…」
と今回外れクジを引いたことを心中でひっそりと嘆いた。




