何かあったんですか?
ようやく亜空間魔法「白日」から解された私はオーリュウの部屋のソファで横たわり、オーリュウの部下のカンシンという魔術師に傷の手当を受けていた。
カンシンはローブに身を纏っている魔族で目の光以外は身体が見えない。
そんな不気味な容姿の癖に治癒魔法は一流で、左肩の傷はあっという間に塞がった。
「ありがとうございます」
とカンシンにお礼を言った。
「大したことない傷だったので簡単に治させた。だが、リベアルとズズバの方がはるかに重症だ。そっちの方は簡単には治せない」
とカンシンが淡々喋る。
そりゃ、どうもすみませんでした…
と心中で謝る。
「やめなさいカンシン。エメさんは被害者でリベアルとズズバの怪我は自業自得です。エメさんを責めることは私が許しません」
オーリュウがやや厳しい口調でカンシンを窘める。
するとカンシンが私にペコリと頭を下げて、オーリュウの部屋から出て行った。
「エメさん申し訳ありません…」
オーリュウが私に謝る。
「いえ、気にしないでください。仲間想いの良い部下じゃないですか?」
「…まあ、そうなのですが」
オーリュウが浮かない顔を浮かべた。
「…ラストアたちの処分はしなくていいですよ。もし、私への配慮を気にしておられるのなら、大丈夫ですから」
私の言葉にもオーリュウの顔は晴れない。
「それに結果、返り討ちにしてしまったのですから、私には何の問題もありません。久しぶりに奥の手も使えたので、いい実戦練習になりましたしね。それに一週間以上もラストアには食事などでお世話になっていますから、それでチャラでいいんじゃないですか?」
と提案する。
「…エメさんがそう仰るなら、ラストアたちの処分は致しません。本当によろしいんですか?」
「はい、私はシスターですよ?誰にでも慈悲深いんです」
と笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。もう二度と誰にもこのようなことは起こさせません。ですから、今度こそ人間界に帰れるまでゆっくりして下さい」
オーリュウが申し訳なさげに言った。
「はい、ではお言葉に甘えて寝かせて頂きますね?」
とソファから立ち上がった。
「あっ、エメさん!」
部屋を出て行こうとした私をオーリュウが呼び止める。
「何ですか?」
振り返って訊いた。
「私がドラゴンであることはくれぐれも内密でお願いします」
オーリュウが自分の口元に人差し指を当てて、そう言った。
「はい、分かりました」
と私も口元に人差しを当てる。
そして、オーリュウの部屋をあとした。
アンネが眠る部屋へと向かおうとすると、前方からラストアが歩いてくる。
「…本当に申し訳ありませんでした」
随分と反省した様子でラストアが私に謝罪する。
どうやら「白日」の中でドラゴンの姿のオーリュウにこっ酷く怒られたようだ。
「もう、いいよ…結果、私の方がアンタの仲間を傷付けた訳だし」
と笑う。
「…セブンシスターズはエメさん以外にもあと六人おられるんですよね?」
ラストアの質問に首を傾げた。
「そりゃ…セブンだからね。何で?」
「いえ、エメさんみたいに強い存在があと六人もいるなんて想像もつかないもので…」
ラストアがそんな台詞を吐いた。
「魔王幹部だって複数いるじゃん?オーリュウ様みたいに馬鹿強い存在が他にもいるなんて考えたくもない。まあ、今の魔界の体制なら私たちと魔王幹部が戦う可能性はほぼないと思うけどね」
私の言葉にラストアが反省を強くする。
ラストアはオーリュウに魔王の座について欲しいのだ。
…でも、それは魔界にとっていいことではないと私は思う。
オーリュウもそう思っている筈だ。
「…じゃあ、私は寝るね?おやすみ」
と欠伸をしながらラストアの横を通り過ぎていく。
「ゆっくりとお休みになってください」
ラストアがそう言って頭を下げたのが横目に見えた。
…どの口が言ってんだよ。
心中で毒づく。
それから、廊下をしばらく歩いて、推しが眠る部屋にたどり着いた。
そして、部屋の扉を静かに開けて、暗い部屋の中を音を立てずに慎重に歩いていく。
自分のベッドに辿り着くと、ゆっくりめに倒れ込んだ。
「エメさん…?」
ベッドの上にうつ伏せになったタイミングでアンネの声がアンネのベッドから聞こえてきた。
「…ご、ごめん。起こしちゃった…?」
と小さ目の声で訊いた。
「いえ、少し前に目が覚めて…そしたらエメさんの姿がなくて…何かあったんですか?」
アンネが心配して私に訊ねる。
「大丈夫、何もなかったよ。安心してお眠りアンネ」
「…はい。おやすみなさいエメさん。でも…くれぐれも無理だけはしないでくださいね?」
アンネはそう言って、それ以上は何も言わなかった。
しばらく様子を窺っていると、アンネの上品な寝息が聞こえてくる。
それに自ずと笑みが溢れた。
…どうやらアンネはアンネなりに私の事情を把握しているようだ。
それがどこまでかは分からないが、あまり心配はかけたくないなと思ってしまった。




