インナリィ王国のお姫様
「いけませんクラリス様!無闇に顔を晒してはっ!」
外の様子を窺っていたイダジンと呼ばれたオッさんが慌てた様子で少女の隣に戻る。
「これくらい問題はないわ。それにこの方はシスターよ。怪しむ理由はありません」
綺麗な顔立ちの少女が首を横に振る。
「簡単に気を許してはいけません。世の中、何があるか分かりませんよ?この者が安全だという保証などないのですから」
オッさんが堂々とそんなことをぬかす。
あっ?
だったら、ご希望通り危険な目に遭わせてやろうか?
「イダジン。いい加減にしなさい」
オッさんの言葉に殺意が芽生えた矢先、それをクラリス様が凛々しい口調でそれを窘めた。
すると、怒られたオッさんが子供のように拗ねた様子で仏頂面を浮かべる。
「本当にごめんなさい。お気を悪くなされたでしょう?」
少女がオッさんの代わりに謝る。
「いえ、大丈夫です。それに姫様が謝る必要なんてありませんよ」
私の返事に目の前の少女とその隣のオッさんが驚いた表情を見せた。
「貴様!何者だ!?さては姫様の命を狙うどこかの国の間者か!」
オッさんが興奮気味に立ち上がる。
「イダジン!」
すぐに姫様がオッさんの言動を咎める。
「…でも、何故私のことをご存知なのですか?」
オッさんを叱りつけたあとで、姫様が少しだけ私を警戒した様子を見せた。
「この方が貴女の名前を言ってしまったので、すぐに分かりました。クラリス様といえばインナリィ王国の姫。それくらいの知識は持ち合わせているもので」
とやや目を細めて、オッさんの方を見た。
「くっ…」
オッさんはようやく自分の失態に気づいた様子で悔しそうに私から顔を逸らす。
その様子が可笑しかったのか、急に姫様がクスクスと笑い出した。
「イダジンのあんな顔を見たことなかったから…」
笑みを浮かべた姫様もかなり魅力的だ。
「ところで貴方は何故こんな山道を一人で歩いていらしたの?しかも、そんな大きな荷物を持って?教会のお使いか何かかしら?」
姫様の質問に思わずウッとなる。
やらかして転勤させられたシスターですが何か?
…とは恥ずかしくてとても言えない。
返答に迷っていると姫様がクスッと笑った。
「答えたくなければ別にいいのですよ。困らせてしまってごめんなさい。ただ、折角こうして馬車を相乗りした縁ですので、少し貴方と仲良くなりたいと思ってしまったの」
姫様の言葉に少し私の顔も綻ぶ。
「そうですね。先は長いですし、私も姫様と少しお話が出来れば嬉しく思います」
とそう答えた瞬間、急に客車が激しく揺れた。




