馬車の先客
「おや?お嬢さんもインナリィ王国へ行くのかい?」
御者のおじさんが私に訊ねた。
その質問に私は嬉しそうに何度も頷く。
「そうか。この馬車はインナリィ城下町までなら行くが、乗っていくかい?」
御者のおじさんの問いかけに、乗りますと口に出そうとした瞬間、御者の後ろの客室の小窓のカーテンが開いた。
「待ってくれ。別の客を乗せるのか?」
その小窓から、真ん中の髪の毛がなくて両隣が垂れ下がった髭面の初老のオッさんが顔を出した。
その台詞に思わずムッとなる。
「そりゃそうでしょ?こんな山道に女性を置いていく訳にはいかないですよ」
御者のおじさんの言葉にそうだそうだと心中で唱える。
「イダジン私は構いませんから、その方に相乗りして貰いなさい」
と小窓からはその姿は見えないが、客車の奥からいかにも上品そうな女性の声が聞こえてくる。
「…分かりました。そう仰られるのなら…」
初老のオッさんがその声の主の方へと振り返って、そう言った。
「済まなかったな…相乗りしてくれ」
と無愛想にひと言こちらに告げてから、その初老のオッさんは小窓のカーテンを閉めた。
なんとも傲慢なオッさんだ。
「良かったな嬢ちゃん。さあ、乗りな」
「ありがとうおじさん」
御者のおじさんにお礼を言って、幌馬車の後方へと回る。
そして、客車の入り口の段差に足を掛けて、客車を覆っている幌の入り口を開いた。
客車の中に入ると、先程の中央禿げのオッさんとその横に白いフード付きのマントに身を纏っている女性が目に入る。
フードで顔は見えないが、華奢な身体と見えている脚から察するに、女性と言うよりは少女と言った方が正解かもしれない。
私が客車に入ってまもなく、ゆっくりと馬車が動き出した。
それと同時に私は木の板の床に座り込む。
感じの悪いオッさんと白いマントの少女はいかにも高そうな絨毯の上に座っていた。
…なるほど、あのオッさんが私を乗せたくないのは分からないでもない。
私が座ってすぐに、中央禿げオッさんが立ち上がり、客車の入り口に顔を覗かせた。
その様子にかなり周囲を警戒しているように思える。
「先程は失礼しました。イダジンは私のことを考えてあんなことを言ったのです。どうかお許しください」
オッさんの行動に不信感を抱いていると、突然白いマントの少女がフードを取って顔を見せて、私に会釈した。
何とも綺麗な肌をした顔が整った少女だった。




