推しとの再会
トリケーリブの塔の壁に沿った剥き出しの階段を登っていく。
手摺は無いものの幅は割とあるので、壁際を歩くと安心だ。
飛空魔法で上まで行けなくもないが、魔力をかなり消費したので止めておく。
とはいえ、だだっ広い塔の壁の周りに階段がついているため、上まで上るのは相当な労力が必要だ。
ある程度、階段を登ったところで下を見下ろす。
七魔衆が固まって何やら話をしていた。
まあ、最早私には関係ないことだ。
と先を急ぐ。
しばらくすると、流石に息切れしてきた。
これまでに険しい山など、過酷な環境に身を置いてきた私がこんな塔の階段で苦戦するとは…
まあ、見た目的に楽に見えるから、いざ上っていくとしんどいのだろう。
何より階段にしているところが悪い。
スロープにしてくれたなら、もっと楽に上まで登れたのに…
と心中で悪態をつく。
にしても、アンネはどうやって上まで上がったのだろう?
ファーシルが上まで移動魔法で送ったのだろうか…?
いや、きっとマンモの霧で上まで飛んで行ったに違いない。
などと、息を切らしながら考えていると、上にあるであろう部屋の底が見えてきた。
階段がその底の端にある空洞へと続いている。
あそこにアンネ…推しがいるんだ頑張れ私!
と推しに会いたい気持ちを力に変える。
ファーシルがいるから、危害を加えられているなんてことはないとは思うが、どういう扱いを受けているかは分からない…
牢に閉じ込められているのだろうか?
もしかして、柱に縛られている…?
そう思うと、階段を上がる速度が自ずと早まる。
なんとか階段を上りきり、塔の上部の空間に入った。
その瞬間、何かを感じる。
魔法だ。
この一帯を魔法が覆っている。
試しに低攻撃魔法を使ったが反応しない。
きっと、攻撃魔法やブレスなどが使えないようになっているようだ。
塔の上部の空間は円に沿った廊下が続いていた。
また、歩くの…?
廊下は塔の外側からゆっくり中央へと渦巻き状に続いており、その中心まで来ると円状になった壁にいくつかの扉が同じ間隔で並んでいた。
えっ、どの扉よ…?
…選択肢を間違うと何か起こるとかないよね?
七魔衆が敵から身を守るためにアジトにした塔だ…何か仕掛けがあってもおかしくない。
と慎重に円状になっている壁の扉を一つ一つ観察しながら回っていく。
しかし、どれもおんなじに見えてくる。
それにこの空間にかかっている保護魔法が私の嗅覚を鈍らせていた。
仕方ない…覚悟を決めて開けるか…
と一つの扉のノブに手を掛けた。
そして、固唾を呑む。
ゆっくりとドアノブを捻り、扉を開ける。
すると中は広い円状の空間になっていて、部屋の中にはいくつもの扉があった。
…何だ、どれもこの部屋の扉かいっ!
と力が抜ける。
そして、顔を上げて部屋の中を見渡すと、中央にあるテーブルの椅子に誰かが座っていた。
私は赤いカーペットが敷かれているこの部屋をテクテクとその中央のテーブルに向かって歩いて行く。
すると、椅子に座っていた人物が私の方を振り返った。
「エメさん!?」
アンネだ。
…無事で良かった。
って、手に持っているのは何…?
とアンネの両手に向かって目を凝らす。
右手にティーカップ、左手にはドーナツだ。
…嘘でしょ?
まさかの推しの扱いに驚きを隠せない…
アンネがドーナツとティーカップをテーブルに置いて、私の方へと駆け寄って来る。
「エメさん迎えに来てくれたんですね?」
嬉しそうにアンネが言った。
「…う、うん…そう迎えに来たよアンネ」
と思わず苦笑いを浮かべた。




