魔王
人間が恐れ、エルフとドワーフからも恐れられている魔界の支配者である魔王。
しかし、その存在は虚構であり、それを知らずに人間たちは魔王を恐れて、数々の勇者を未だに生み出し続いているのだ。
魔王がいない理由はいくつかある。
一つは人間に恐怖を与え牽制することによって、勇者の魔界への進撃を防ぐこと。
あと、魔界にとって独裁者を作ることはいいことではなかった。
一部に権力が集まると、貧富の差を生むだけではなく、あちこちに反乱や略奪が頻繁に発生するからだ。
あと、支配者である魔王が万が一、魔族以外の者に敗れてしまえば、たちまち魔界は滅び、アンネが豊かだと言った魔界の土地は人間たちによって奪われてしまうリスクがある。
かつては魔王は存在したが上手くはいかなかった…その教訓を活かして、現在は敢えて魔王の座は空席にして、その周りに立ついくつかの魔王の幹部たちが魔界を統括しているのだ。
トップを一つにしないことで、バランスが保てるのだろう。
そこの点においては人間界より遥かに魔界は優れている。
人間は馬鹿みたいに勇者を量産し、魔族という敵があるというにも関わらず、国同士の争いは未だに絶えない。
…人間である私でもたまに人間が嫌になる。
と実は魔王がいない事実に七魔衆は見向きもせず、世界のバランスを保つために存在する私たち調律者セブンシスターズに興味があるというのだ。
「関係ありますよ。彼女はあなたにあることをして頂くための人質なのです」
ヴィアレタンが言った。
「あること?」
すぐに訊き返す。
それにファーシルが答えるべく口を開いた。
…ていうか話すのは誰か一人に統一しろよ。
「私たちは何も魔王の座や魔界統一が目的で他の魔族や手当たり次第に町や村を襲ってきた訳じゃありません。ただ、力をつけたかった。強さを純粋に求める…それが私たち七魔衆です。そして、私たちの最大の目標は七魔衆は力を世界に見せつけること」
ファーシルの返答に思わず怪訝な表情を浮かべた。
「…なんじゃそりゃ?」
思わず呆れた言葉が口から出た。
「私たちは昔からこの魔族の七体で活動してきました。まだ、そんなに力がなかった時期に私たちはある噂を耳にしました」
私の呆れた表情にも構わずファーシルが語る。
「セブンシスターズか…」
私の言葉にファーシルが頷く。
「ええ、そうですエメさん。この世には魔王でもなく勇者でもない更に上の存在…調律者と呼ばれる七人の人間がいるという噂を私たちは知ってしまった。そして、凄く興味を持ったのです。同じ七という個数に共感を覚えてしまったのかもしれません。だから、その時から私たちの目標はあなたたちセブンシスターズだった」
「…なるほど、オーリュウが私に七魔衆の討伐を依頼したことはアンタたち七魔衆にとっては好都合だったという訳か?」
ファーシルが私の言葉に頷く。
「はい。派手に暴れていればいつかは魔王幹部の誰かがそうしてくれると思っていました」
ファーシルが笑顔で言った。
おいおいオーリュウさんよ…まんまと七魔衆の思い通りになってるじゃないか…
と心中でため息を吐く。
「私たちにとってあなたは憧れなんですエメさん。だから、近づいてみたかった…」
ファーシルが少し切ない顔を見せた。
「しかし、憧れはいつしか目標に変わった。お前たちを倒す目標へとな」
急にタサンが喋った。
思わず右手で鼻をつまむ。
私の行動にタサンが首を傾げた。
「…憧れが目標にね。くだらない」
鼻から指を離して言った。
「なんだと!?」
私の言葉にタサンが噛みついた。
「そんななら、まだ欲望のままに権力を得たいと思う方がまだマシ」
と七魔衆の理念を否定する。
それにタサンやベルバブゼが怒りを顕にしていた。
しかし、ファーシルとヴィアレタンは表情を変えない。
あとはよく分からん。
「まっ、要するにアンタたちは実力で私を倒すことが目的なのね?」
と納得しながら問いかける。
「違う、お前だけじゃない。我々の目的はセブンシスターズ全員と戦い勝つことだ」
蝿頭のベルバブゼが言った。
…は?
蝿頭の言った台詞に思わず何?となる。
「あのシスターを返して欲しければ、ここに残りのセブンシスターズを呼べ。七対七で戦って我々の力を示すのだ」
蝿頭が私に命令する。
その瞬間、私は大声で笑い始めた。
「な、何がおかしい!」
ベルバブゼが激怒する。
「…そりゃ、笑いたくもなるわ。セブンシスターズ七人全員と戦う?笑わせるな。お前ら如き、私一人でおつりが来るつーの!」
そう言ってから、私はチェーンを外してロザリオを手に握った。




