起爆剤
オーリュウの部屋で話し合ったあと、私は寝泊まりさせてもらっている部屋へと向かった。
トルケーリブの塔には明日の朝に行くことになっている。
それまでは普通に睡眠を取っておかなければ、戦えるものも戦えない。
はやる気持ちをぐっと抑える。
部屋にたどり着き、扉を開けた。
ただでさえ、だだっ広いというのにアンネがいないと更に広く感じる。
ここに来てほぼ一週間穏やかな日々が続いていた。
…まあ、私の心中が穏やかだったかはさておき、アンネが隣で笑い、ファーシルが向かいで楽しそうにしていたのは事実だ。
あの日々は嘘ではないと信じたい…
ベッドに腰掛けてそう思い耽っていると、扉のベルが鳴った。
私は少しだけ顔を上げて、扉に視線を向ける。
すると、扉がスッと開いて、ラストアが部屋に入ってきた。
「先程は無礼なことを申し上げて大変失礼致しました」
ラストアが入り口で深々と頭を下げた。
それに大きなため息を吐く。
…入り口からベッドまで割と距離があるんだから、そんな声量で喋られてもよく聞こえないわ。
とベッドから腰を上げて、ゆっくりとラストアの方へと歩いて行く。
「謝る必要なんてないですよ。あなたの立場ならああ言うのが正解だし、オーリュウ様の部下としては満点じゃないですか?それに自分でも、悪いと思ってやしないでしょ?」
ラストアの前で立ち止まり、腰に手を当てて言った。
「はい」
ラストアが顔を上げてハッキリと返事をする。
全く…素直だなこの女は。
「用事はそれだけですか?明日に備えて寝たいのでベッドに戻りますね。あっ、朝御飯の用意はいつも通りお願いします。体力つけないといけないんで」
と踵を返して、右手を上げて左右に振る。
…正直言って今の私は機嫌が悪い。
まして、アンネを弱点とか抜かしたやつと話す余裕なんてありゃしないんだよ…
「随分と落ち着いていらっしゃるんですね?」
背中に掛けられた言葉に思わず足を止めた。
「…落ち着いているように見えますか?」
顔だけラストアに向ける。
…向けるというよりは睨んだが正解だ。
「…いえ、言葉が選びが悪かったですね。ただ、すぐにでも助けに行くとかは言わないので少し意外でした。それに狼狽える様子も全くないので」
ラストアが実に正直に語る。
身体を彼女に向けて大きなため息を吐いた。
「…それが最良ならそうするさ。ただ、アンネを人質として攫ったということは、それだけアンネに人質として価値があるってことだ。なら、そんな酷い扱いは受けやしない。七魔衆の連中がアンネに危害を加えようとしても、おそらくファーシルがそれを許はしないだろうからね」
少し苛立ちを込めて語る。
…コイツは一体何がしたいんだ?
単に私を怒らせたいだけなのか…?
「…そうですか。度々、失礼なことを言ってしまい本当に申し訳ありません」
ラストアが再び、深々と頭を下げた。
その様に鼻からため息が漏れる。
ラストアが顔を上げて、まだ口を開いた。
「…ただ、私はこの一週間、あなたたちを見てきました。実に楽しそうにしていらっしゃるなと…なので、それが嘘だったように一瞬で壊れてしまったことが信じられません。私にはあの日々が嘘には思えないので」
ラストアの言葉に思わず目を開いた。
ラストアの言うあなたたちは私とアンネだけしゃなくファーシルも含んでいるのだろう。
そのことに薄く笑みが溢れる。
「…分からない。だから、明日それをファーシルに問いただしてくるよ。これはファーシルの策なのか、七魔衆の策なのかは知らないけど、私にとってアンネは起爆剤だ…それに火をつけたことを後悔させてやる」
決意をラストアに告げる。
「…あなたは一体、何者なんですか?」
ラストアの問いに思わず目を丸くする。
「そんなのご存知でしょ?」
「はい、素性は知っています。ただ、なんというか抱いていたイメージとはかけ離れていたので」
ラストアが私を褒めているのか貶しているのかは分からない…ただ、彼女がイメージしていたセブンシスターズではなかったのだろう。
「推しのためならたとえ火の中水の中精神のシスターですが何か?」
そう答えて、私はベッドへと歩み出した。




