首筋の刻印
綺麗な花火が夜空を彩っていた。
私とアンネは目を輝かせて夜空を見上げている。
「お待たせしました」
花火の音に混じってファーシルの声が聞こえてきた。
声の方に視線を向けると、ファーシルがグラス三つ持って戻ってきたのだ。
右手に二つ、左手に一つだ。
持ち辛そうだとアンネがすぐにファーシルの元へと駆けていく。
そして、アンネがグラスを二つ持って、私に近づいてきた。
「はい、エメさんの分です」
アンネに手渡されて、グラスを受け取る。
「ありがと」
とファーシルに視線を向けて礼を言う。
その瞬間、私は固まった。
えっ…どゆこと?
ファーシルの首筋にあった刻印が消えている…!?
すると、ファーシルがゆっくり口を開いた。
「あーあ、流石はエメさん。もう気づいちゃいましたか?もう少しみんなで花火を楽しみたかったのに残念」
と私とアンネに向かってファーシルが手を翳す。
「アンネ!私の後ろに隠れて!」
手に持っていたグラスを落とし、すぐに右手でアンネの手を引いて、私の後ろへと移動させる。
と同時に左手でロザリオのチェーンを引きちぎった。
アンネが持っていたグラスが地面に落ちて割れる。
その瞬間、目の前で爆発が起こった。
ファーシルの爆破魔法だ。
それを魔法特化の防壁魔法で防ぐ。
私に詠唱は不要だ。
…だけど、ファーシルも詠唱なしに魔法を放ちやがった。
その事実にファーシルの強さを認識する。
「流石はエメさん。これ程度の不意打ちなんて効きませんね」
ファーシルがクスッと笑う。
「…おいおい約束が違うでしょ?お祭りが終わるまでは仲良くするんじゃなかったっけ?」
アンネを魔法で守りながら、そう訊ねる。
それと同時にロザリオを大きくした。
「あらっ、そうでしたっけ?もう一緒に花火も見られたから良いかなって」
ファーシルが笑みを浮かべた。
「…首にあった刻印は自分じゃ消せない筈。てことはこのお祭りに乗じて乗り込んできたお仲間に消してもらったって訳か…?」
冷静にファーシルへ問いかける。
「そうです。だから、お祭りが終わるまでは仲良くしましょうって言ったんです。だって、ベルバブゼに刻印を消してもらわないと魔法が使えないし、簡単にエメさんに殺されちゃいますしね。ていうか、そんな悠長に喋っていていいんですか?」
ファーシルの言葉に「えっ?」と言葉が漏れた。
その瞬間、頭上から何かが現れたのだ。
大きな影が魔法特化の防壁に守られている私とアンネを覆う。
どデカいゴーレム…ルーゴフェルベか!?
私は咄嗟にアンネの身体を押して、ゴーレムのルーゴフェルベの不意打ちの射程圏から遠ざけた。
思わずアンネが尻餅をつく。
その瞬間、私をルーゴフェルベが押し潰す。
が、咄嗟に床を爆破魔法で穴を空け、ロザリオで防いだ。
「この野郎ー!!」
叫び声を上げて、ルーゴフェルベをアンネがいない場所へと弾き飛ばす。
岩の塊のようなルーゴフェルベが屋上の床に落ちて大きな窪みが出来る。
すぐにアンネの元へと急ぐ。
「ごめんねアンネ。突き飛ばしたりして…」
アンネの手を取り言った。
「大丈夫です。私を助けるためにしてくれたのですから気にしないでください」
こんな時でもアンネは笑顔だ。
それに思わず笑みを浮かべる。
すると、再び爆破魔法が私たちを襲った。
でも、防壁魔法で守られているため無傷だ。
「目の前でそんなに仲良くされると嫉妬してしまいますよ?」
ファーシルが薄く笑った。
「…何でですか?何でこんなことをするんですかファーシルさん!」
背後からアンネが身を乗り出して、ファーシルに訴えかける。
「何で?愚問ですよアンネさん。あなたも私の素性をご存知しょ?なら、こうして敵対することは分かっていた筈です」
ファーシルが真剣な表情で言い返す。
「…アンネ。あまり前に出たら危ないよ?私の後ろに…」
身を乗り出してファーシルに抗議するアンネにそう言い切る前にファーシルの魔法でもルーゴフェルベの攻撃でもない何かが私たちを襲った。
火炎だ。
咄嗟にアンネを抱き寄せ、ロザリオを右から左へと振るう。
向かって来た炎をロザリオで逸らした。
炎を防ぐ魔法壁はあるが、今は魔法特化の魔法壁を展開しているため使えない。
魔法に物理攻撃…そして、ブレス攻撃ときたか…
なんとも忙しないことだ。
「火炎…ああ、情報量の多いモデウスアスだったっけ?」
ファーシルの後方にいた火炎が吐いた主へと視線を向ける。
たしかに人と牛と羊の三つの頭に尾はヘビだ。
でも、肝心の身体が薄暗くてよく見えない。
さっきまで上がっていた花火がどういう訳か急に上がらなくなった。
だから、今の屋上はかなり薄暗い。
「ご名答。よく名前を覚えていますね?あっ、もしかして花火を気にしてます?それなら、私の首の刻印を消したあとで蝿頭のベルバブゼが花火の魔法を妨害しに行ったためですよ」
ご丁寧にファーシルが教えてくれた。
…花火を止める理由は何だ?
と考えていると空中から闇魔法が飛んできた。
鋭く尖った闇魔法で魔法特化の防御壁を突き破ってきたのだ。
身体を捻って、アンネを闇魔法から守った。
その際、肩を掠って痛みが走る。
「おっ、やるじゃねえか?俺のデスショットを避けやがったぜ」
頭上を見上げると、夜空に黒い羽を生やした真っ黒の身体の悪魔タイプの魔族が浮いていた。
…おいおい、七魔衆の連中がほとんどいるじゃないか。
いくらお祭りだからと言って、ここのセキュリティは一体どうなってんのよ?




