クナモテアのお祭り
クナモテアのお祭りの前日も変わらずに私とアンネはファーシルと仲良く過ごした。
自分の素性を隠すことなくファーシルは晒していた。
私だけではなくアンネにも…
だからこそアンネにとってクナモテアのお祭りはおそらく楽しみなものから苦悩なものへと変わってしまっているだろう。
だけど、そんな様子は私の前では一切見せていない。
前に祭りが終わったらどうするんですか?とアンネに訊かれた。
そして、私の返答を聞いたアンネはあれ以降、その質問をすることはなかった。
私の前でファーシルに対する情を出してはならないと、アンネ自身考えているのだろう。
私もそれを察して、アンネには何も言っていないし、何も言うつもりもない。
…ただ、このままファーシルとお祭りを楽しむだけだ。
そして、クナモテアのお祭りの日がやって来た。
「夜にはたくさんの花火が上がるそうですよ。楽しみですね?」
朝食の時、右隣りに座るファーシルが実に嬉しそうに私に言った。
「花火かぁ…いつ振りだろう?アンネは見たことある?」
私は左隣に座るアンネに訊ねた。
「はい、タオカモイでもそんなに規模は大きくありませんが新年の祝いの時は花火が上がりますよ」
「そうなの!?知らなかった」
アンネの言葉に驚く。
「エメさんはまだタオカモイに来てから年を越してませんから。でも、今年は一緒に見られると思いますよ」
アンネが笑顔で言った。
すると、右隣に座るファーシルがムスッとした表情を見せる。
その表情に随分と私たちに気を許してるんだなと思った。
「…ズルい。私も一緒に見たかったです。まあ、それは無理としても、今夜はちゃんと私と一緒に花火を見てくださいねエメさん?」
とファーシルがまたアンネを煽るように私にくっついた。
ほら、今度は左隣に座るアンネが頬を膨らませているではないか…
思わず苦笑いになる。
「…ラストアさん。お祭りはいつからですか?」
いたたまれなくなり、逃げるようにラストアに訊ねた。
「大体、昼以降からですね。昼くらいになると遠方からの来訪者の方たちがたくさん来られます。この屋敷にもオーリュウ様のお知り合いの方々がお見えになるので、あまり屋敷内をうろつかないようお願いします」
ラストアが無表情で答える。
…まるで、私たちがいつもうろついているみたいじゃないか?
まあ、十分にうろついているか…
一週間この屋敷にいるけれど、どうやらラストアには良くは思われなかったようだ。
朝食を終えて部屋に戻り、しばらくしてファーシルが誘いに来る。
屋敷内をうろつくなということだったので、三人で屋上に行くことにした。
屋上で三人でたわいない会話をしていると、屋上からこのクナモテアの町にたくさん来訪者が来ていることが窺える。
こりゃ、ますますアンネから目を離せないなと、アンネの方に視線を向けた。
アンネはそんな危険を知る由もなく、ファーシルと楽しげに笑みを浮かべながら会話をしている。
その光景に思わず口角を上げた。
日が真上に上がり、やがて傾いてくる。
何度かトイレや水分補給をしに屋敷の中に戻ったが、基本私たちは屋上にいた。
途中、オーリュウ様を見かけたが、来客の対応に追われて、私たちどころではないようだったので、声を掛けなかった。
屋上から見る景色が夕暮れの町になった頃、町から賑わいの声が聞こえてくる。
どうやら、町はすっかりお祭りムードになってきたようだ。
町に繰り出したいが、人間の私とアンネが行くと目立ち過ぎるし、何よりアンネが危険である。
ファーシルだけでも行って来ていいよと私もアンネも言ったけど、ファーシルは首を縦には振らなかった。
「みんなで花火を見るだけで充分です」
ファーシルが笑顔で私たちに言う。
そして、日が沈み夜が来る。
と同時に花火が打ち上がった。
なんともデカい花火が夜空に綺麗に舞う。
私とアンネは思わず空に釘付けになる。
「魔界の花火は大抵は魔法によるものらしいですよ。なので、割と長い時間上がっている筈です。何か飲み物を取ってきますね?」
とファーシルが気を遣って、屋上から降りていく。
その後ろ姿をアンネが少し切なそうに眺めている。
私は何も言わずにそんなアンネの頭を優しく撫でた。




