ファーシルの出方
あれから私とアンネは充分に食事を楽しんだ。
コースのように出てくる料理はどれも最高で、最後のデザートも美味しかった。
しかも、おかわりは要りますか?と言われ、私はデザートを三回もおかわりしたのだ。
無論、アンネはしっかりとおかわりを断っていた。
流石は私の推しでシスターの鏡…私欲には走らない。
なのに、私は三回も…
そういうとこだぞ私…
と反省するも、話の方は一応まとまった。
しばらくはファーシルの出方を窺うため、オーリュウの城への移動は避け、このクナモテアでしばらく様子を見ることになったのだ。
なんでも、一週間後にはクナモテアで祭りがあるらしく、せっかくなので、オーリュウは私たちにも楽しんで欲しいと言う。
まあ、そんな悠長なことをしていていいのかという気持ちもあるが、わざわざ魔界に来たのだから、魔界の町の祭りも楽しんでみたいと笑顔で了承した。
その間に私たちの人間界へ戻るための手続きはしてくれるそうで、これなら七魔衆の件が片づけば無事にアンネと人間界に帰れそうだと、少し溜飲が下がる。
…仕方ないしばらくはゆっくりしとくか。
食事のあと、私とアンネは部屋へと戻り、ラストアが用意してくれた寝衣に着替え、そのあと私は自分のベッドの上で大の字になって寝ていた。
魔界へ来た時間が大体昼頃だったので、それから温泉に入り、しばらくオーリュウを待って、そのあと食事をしながら長々と話したので、もう外はおそらく暗いだろう。
なので、そろそろ就寝の時間だ。
しかし、ずっとだだっ広い空間にいるせいか、まともに外の景色を拝めていないため、今が夜の感覚がまるでない。
魔界も人間界と変わらない感覚で日が昇り朝が来て、日が沈み夜が来る。
ただ、夜の魔界は人間界以上に危険であり、たとえ魔族であっても、夜は町の外には安易に出たりはしない。
…魔物の出現率がまるで違う。
昔、訳あって夜の魔界の森を抜けないといけない時があったが、その時はマジで死ぬかと思った…
あの時はたしかヨアとウンディとリラの四人だったっけ?
セブンシスターズが四人揃っても地獄だったのだから、まあ危険だ。
でも、町の中なら大丈夫である。
魔物も知能が全くない馬鹿じゃない。
相手の領域に手当たり次第に入ることはないし、大抵の魔界の町には強力な結界が夜にだけ張られている。
まして、このクナモテアはなら、間違いなく安心出来るだろう。
「エメさん…?」
自分のベッドで仰向けになって考えていたら、いつのまにか横にアンネが立っていた。
推しの登場に思わずバッと上体を上げる。
「どうしたアンネ?あっ、灯消す?えっと…この部屋の灯はどうやって消すんだ…?」
と周囲を見渡した。
壁にはいくつかの明かりが灯っていて、天井にも高級なシャンデリアがいくつも吊るしてある。
見たところタオカモイの教会にある灯油ランプではなそうで、どうやら魔法による明かりに見えた。
そのため、僅かな魔力を部屋中に感じる。
「…いえ、違います。あの…エメさんさえよければ、今晩は一緒に寝て貰ってもいいですか…?その…やっぱり魔界に来たと思うとあらためて怖さが込み上げてきて…」
とアンネが目の前でモジモジとしていた。
…可愛い…可愛すぎるぞ我が推しよ。
推し好きパラメーターがMAXになった私は表情を一変させる。
「仕方ないなアンネ…分かった。今夜は私のベッドで寝るといい。私がアンネを恐怖心から守ってあげるよ」
と優しくアンネをベッドへと招き入れる。
そして、アンネがピッタリと私に身体を寄せた。
「ありがとうございますエメさん…落ち着いて寝れそうです」
と言って、私の身体に顔を埋めるように顔を寄せた。
普段は表情に見せてはいないが、やはり魔界に来た不安が結構あったんだろうな…
そりゃそうだ…全く知らない土地…まして人間が恐れている魔族が住む土地に、いくら知っている私がいるからといって、怖くない筈がない。
アンネの表情を見ながらそう思った。
ちゃんと無事に人間界…いや、タオカモイに戻してあげないとな…とアンネを見ながらそう決意する。
それにしても何でアンネはこうまでして、魔界へと付いて来たんだ?
優しいアンネのことだから、私の助けになりたいと思ってくれたのだとは思うけど、流石に魔界と天秤にかけたら普通は付いて行こうとは思わないだろう…
「…アンネ?」
理由を聞こうとアンネに話しかける。
しかし、反応がない。
そして、小さく寝息が聞こえてきた。
…疲れたんだねアンネ。
心中でそう言って、優しくアンネの頭を撫でた。
まっ、理由なんてどうでもいいか…
「おやすみ」
そう言って、私は推しの可愛い寝顔を間近に至福の時間を過ごした。
ああ、こんな間近に推しが…控えめに言ってマジ最高…
とつい口から垂れそうになったヨダレを寝衣の裾で拭う。
…ん?
それにしても、これ大丈夫か?
あることに気がつく。
…私、寝相がめちゃくちゃ悪いんだよね。
と、不安が頭をよぎった。




