魔王の事情
私の言葉に場の空気が変わる。
と言っても、それはオーリュウではなく、近くに立つラストアと隣のアンネだ。
せっかくの食事だ…あまり深刻な話し方は良くないなと声のトーンを変えることにする。
「向こうは私たちがオーリュウ様によって連れてこられたことは知っていました。私の素性までは分かりませんが、まあシスターとなれば、向こうに知識があればそれなりに予想はされてしまっているかと…ところでオーリュウ様はファーシルにお会いになられたのですか?」
私の喋り方が柔らかいだのを感じたのか隣のアンネの表情が少し緩む。
それを感じたところでオーリュウが私の質問に答えた。
「はい、先程エメさんに会う前に会いました。持参していた献上品を受け取ったあとで少し話をしただけです。本当にたわいない話で、警戒していただけに拍子抜けでした」
オーリュウが困った表情を見せる。
「…何が目的なんでしょうね?もしかしたら、わざわざ無抵抗アピールして会いに来ることで、私はオーリュウ様の目論見が分かっていますとでも、言いたいのでしょうか?」
と首を傾げ、料理を口に運ぶ。
お肉の味わいが口に広がり、思わず顔が緩む。
「…分かりません。ただ、私がエメさんに魔界七魔衆の討伐を依頼したことは気付かれていると考えていいでしょうね。もしかすると、こうやって牽制することでエメさんが動けずに討伐を断念させる算段なのかもしれません…」
オーリュウが深刻な表情を見せる。
…まあ、普通はそう考えるのが正しい。
なら、私に会わずにオーリュウにだけ会えばよかったのでは?
オーリュウは直接、ファーシルには手を出せない。
まして、刻印をして無抵抗アピールまでしている相手を…
でも、私は違う…
調律者として、いつでも彼女を葬り去ることは出来る。
たとえ、魔力を抑制する刻印をしていようが、私には関係ない。
なので、ファーシルにとって私に会うことはリスクしかないはずだ。
彼女が私の素性を知っているなら尚更…
それでも、彼女は自ら自分の素性を私に晒した。
まるで、私…セブンシスターズに自分たちの討伐を望んでいるようにも感じる。
まあ、それは考えすぎか…
それはさておき、あとはファーシルたちがあのことを知っているかどうか…
「…そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。ファーシルの行動は理解し兼ねますが、問題は彼女たちが魔王…」
と思わず言いかけたところで止める。
そして、オーリュウの近くに立つラストアに視線をチラッと向けた。
「…大丈夫ですよ。ラストアはそのことを存じてます。口に出して頂いても問題はないかと…流石にこの部屋の会話を七魔衆が聞くことは不可能ですし」
オーリュウの言葉に頷く。
だが、隣にアンネがいる。
アンネに魔王の事情を聞かせるわけにはいかない…
オーリュウは気にしなくとも、ラストアや事情を知る他の魔族がアンネを生かしてはおかない可能性があるからだ。
「いえ、この場では流石に…まあ、私の見解ではおそらく彼女たちは知っていると思います」
「…ですよね。私もそう思います…それを含めてアピールしてきているようにも思えますし…」
オーリュウがため息を漏らす。
「なら七魔衆の目的はやはり…」
オーリュウに視線を向けながら言った。
「おそらくは…もしかしたら、宣戦布告なのかもしれませんね…」
オーリュウがこくこくと頷く。
「…問題は七魔衆がどれほどの力を付けてきているのかですよね。手下の数や自分たちの力量も含めて…」
そう言ったあとで、目の前の皿を平らげる。
「力量までは計れませんが、敵の規模は調べておきます」
オーリュウの言葉にしっかりと頷くも、視線は目の前の空になったお皿だ。
肉料理の次は何が運ばれてくるのだろう?
デザートはあるのかな?
と深刻な話をオーリュウと話しながらも私は実に食事を楽しんでいた。




