ファーシルの意図
あれからしばらくして食事の準備が整ったらしく、部屋にラストアが迎えに来る。
その時の彼女はすっかり元の無表情に戻っていた。
私とアンネはラストアに連れられて、オーリュウが待つ広間へと案内される。
赤い絨毯が敷かれた廊下を割と長々と歩き、どデカい扉の前に辿り着く。
…無駄に大きすぎやしないかこの屋敷?
まあ、魔王幹部である威厳を敷地の大きさや高級さで周囲に対して示さないといけないのだろう。
オーリュウも大変だな…
と感想を抱いた時、ラストアが大きな扉を開く。
すると、大きな広間が目に飛び込んできた。
寝室や浴場も広かったが、ここは規格外だ。
下手をすればタオカモイの町くらいはあるかもしれない…
それは言い過ぎだが、間違いなく前の村はすっぽりと入るだろう。
広間の中央付近に長いテーブルが見えた。
…あそこまで歩くのが労力だよな。
とげんなりする気持ちは顔には出さない。
ラストアの後を歩き、中央のテーブルへと近づいていくと、すでにオーリュウが席に着いていた。
顔がしっかりと窺える距離で互いに会釈する。
「どうぞ」
ラストアが私が座る席をテーブルから引いた。
「ありがとうございます」
そう言って着席する。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
続いてアンネも席に座った。
長いテーブルの上座にオーリュウが座っていて、オーリュウから見て右側に私とアンネが座っている。
ぱっと見、長いテーブルには二十人近く席があるが、使用しているのはたった三席で、なんともいえないくらい勿体無さが込み上げてきた。
まあ、そう思わせるのは無駄に広すぎる部屋のせいだろう。
「では、お食事を始めましょう。話はお食事をしながらでも構いませんよねエメさん?」
オーリュウが私に訊ねる。
「はい、勿論です」
私は頷き、笑顔で答えた。
すると私の回答を聞いたラストアがスッと動く。
歩いて広間の出口へと向かっていった。
よく教育が行き届いている。
…しかし、あまりにも部屋が広すぎるだろ?
部屋の扉へと歩いていくラストアの後ろ姿を見ながらそう思う。
部屋を出るのも大変だ。
ん?もしかして、いちいちあそこから料理を運ぶのか?
こんなに広いんだから、厨房くらい室内に設置しとけよな…と感想を抱いて前を向いた瞬間、目の前のテーブルにパッと料理が現れる。
思わず隣のアンネが驚きの声を上げて、恥ずかしさからかすぐに口を押さえた。
私も表情はびっくりしているに違いない。
「流石に料理をいちいち運んでいては、その間に料理が冷めてしまいますからね」
私たちの反応を見て、オーリュウがクスッと笑う。
魔法で料理が運ばれてくるなんて、流石は魔王幹部の家…屋敷…いや城だ。
目の前の料理はどうやら前菜のようだ。
脇にはグラスに入った水もしっかりと用意されている。
「何か飲みたいものがありましたら、遠慮なくおっしゃってください」
オーリュウの言葉に思わず脳裏にアルコールの類いが浮かんだが、すぐにかき消す。
これから大事な話をするんだ…酒なんて呑んでる場合じゃないぞエメ。
と自分に釘を刺す。
「いえ、私は水で大丈夫です。アンネは何か飲む?」
隣のアンネに訊いた。
「私も水でいいです。いつも基本的に水しか飲んでいませんので」
アンネの返答にそういやそうだったなと思い返す。
この前、私がチートーズから帰ってきた時の慰労会でも、アンネは常に水しか飲んでいなかった。
流石はシスターの鏡アンネ…
その横で阿保みたいに酒を呑んでいた私の絵が脳裏に浮かび、思わず反省する。
「さあ、遠慮なく召し上がってください」
オーリュウがそう言ったので、私はすぐにテーブルに置かれたフォークとナイフに手を伸ばす。
すると、アンネが目を瞑り手を組んで祈りを捧げ始めた。
「神よ…あなたのいつくしみに感謝して、この食事を頂きます。ここに用意されたものを祝福し、わたしたちの心とからだを支える糧としてください。神の恵みに感謝します…アーメン」
私はフォークに伸ばした手をピタリと止めた。
「やはりアンネさんは流石のシスターであられますね」
アンネの祈りを聞いて、オーリュウがそう言った。
…だよね。
教会ではするけど、教会を出たら基本やらないから、ついつい地が出たわ…
…恥ずかしい限りである。
それから、私たちは前菜を口に運んだ。
人間界で食べているものと遜色ない…というよりはこの間インナリィ城で頂いた食事とほぼ同じかそれ以上のレベルだろう。
と言っても私はそんなにグルメではないので、ある程度美味しく食べられたらそれでいい。
「どうですか?お口に合いますか?」
オーリュウが私たちに訊ねた。
いや、どちらかと言えばアンネにだろう。
「美味しいです」
とアンネがにこやかに返す。
「そうですか。それは良かった」
オーリュウが安堵の言葉を口にする。
前菜を食べ終えると目の前の皿が消えて、新しい料理が魔法によって運ばれてきた。
なんとも便利なものである。
そして、いつもの間にかラストアが部屋に戻ってきていた。
「では、そろそろ話を始めましょうか?」
オーリュウの言葉にフォークとナイフを持つ手をピタリと止めた。
「…そうですね。ここに丸腰で乗り込んできた魔界七魔衆のリーダーであるファーシルの意図が何なのかを話し合わないといけませんね」
と真剣な表情をオーリュウに向けた。




