怒り心頭
温泉から上がった私はすぐさまオーリュウに面会を求めた。
だが、メイドのラストアは「オーリュウ様はお忙しいので、すぐには面会出来ません」の一点張りで会わせてくれない。
仕方なく部屋で待つ。
…せっかくの温泉が台無しだ。
高級なカーテン付きベッドにあぐらをかいて座りながら心中で苛つく。
温泉から上がったら修道服と下着が綺麗になっていたので、修道服のソープの香りが安らぎを与えてくれている。
…はずなのに、こんなに私は苛ついているのである。
そりゃそうだろ…オーリュウが私に倒して欲しいと依頼してきた相手がオーリュウの屋敷の温泉に堂々と浸かっていたのだから、頭がこんがらがりそうだ。
…なんで魔界七魔衆のリーダーがこの屋敷にいるんだよ?
…てか、そもそもなんでオーリュウは屋敷の中に入れたんだ?
頭がおかしいんじゃないか…?
「…エメさん?」
隣のベッドの上でお行儀よく座っているアンネがやや遠慮気味に私に話しかけた。
そのことにハッとなる。
「アンネ…何?どうかした?」
アンネの存在を忘れて怒り心頭だった私の精神が少し落ち着きを取り戻す。
「いえ、大丈夫かなと思って…エメさんあれからずっと怖い顔をしているから…」
アンネが…推しが…私を怖がっているじゃないか?
…な、なんてことをしてしまったんだ私は!
いくらムカついたからといって、推しの存在を放置してしまうのは推す側としては最低の行為だ…
「ご、ごめんアンネ!決してアンネに怒っている訳じゃないよ?」
ベッドから立ち上がって反対側に回り、アンネの前で弁解する。
「分かっています。あの魔族の方はオーリュウ様がエメさんをここに連れてきた理由なんですよね?」
「…う、うん」
と力なく頷く。
アンネもなんとなく察しているようだ。
「…でも、エメさんには優しい顔でいて欲しいんです。いつも私に向けてくれる笑顔みたいに…」
アンネが下を向きながら言った。
その言葉に思わず修道服のフード越しにぽりぽりと頭を掻く。
そのタイミングで部屋のドアがノックされる。
すぐに小走りでドアへと向かう。
後ろからアンネもついてくる。
ドアを開けると、そこにはオーリュウの姿があった。
「オーリュウ様!?」
思わず声を上げた。
…まさか、わざわざ訪ねてくるとは思わなかったからだ。
オーリュウの後ろでラストアが幾分納得がいかない表情を浮かべていた。
いつも無表情の彼女だから、きっと感情を表に出すことは珍しいはずだ。
「話はラストアから聞きました。すみません…きっと嫌な思いをさせてしまいましたね?」
「…い、いえ」
と幾分目を逸らした。
「ただ…まさか魔界七魔衆のリーダーがオーリュウ様の屋敷の温泉につかっているとは夢にも思っていませんでしたので…私に倒して欲しいのはアレですよね?」
念の為、確認する。
私の言葉にオーリュウ様が頭を抱えた。
「…ええ、そうです。私もまさか七魔衆のリーダーがこの屋敷に乗り込んでくるとは夢にも思いませんでした…ラストアにどうするかと聞かれた時は悩みましたが、首に魔力を抑制する刻印を刻んでいて敵意がない以上、魔王の幹部である私が彼女を追い返す訳にはいきませんので、仕方なく招き入れました。すみません…」
オーリュウとあろう者が私に向かって深々と頭を下げた。
オーリュウの後ろにいるラストアが見るからに怒りを顕にしている。
そりゃそうだ…人間である私に大切な主人が頭を下げているなんて気分が悪いことこの上ない。
「頭を上げてくださいオーリュウ様!分かりました。そんな事情がおありなのでしたら、私も納得せざるおえません。急なことで私もついつい気持ちが混乱してしまいました…こちらこそ申し訳ありません!」
とオーリュウに深々と頭を下げ返す。
「…いえ、全ては私の責任です。エメさんに彼女たちの討伐を依頼しておきながら、その相手を易々と屋敷に入れるなんて…混乱させてしまい本当にすみませんでした」
更にオーリュウに頭を下げられた。
頭を下げたまま、ラストアの表情をチラ見する。
最早、彼女は無表情ではなくなっていた。
…頼むからもう魔王幹部が私なんぞに謝らないでくれ。
と言っても、つい怒ってしまった私が悪いか…
このあと、なんとか場は落ち着き、話の続きは食事をしながらとなったので、食事の用意が整うまでアンネと共に一旦戻る。
ベッドに再び腰掛けて、思わずため息をついた。
「…大丈夫ですかエメさん?」
私の様子をアンネが心配する。
「ありがとアンネ。私は大丈夫。ごめんね心配させて」
とベッドから立ち上がり、アンネの頭を優しく撫でた。
「…それにしても、魔界の食事ってどういう感じなんですか?私、食べられるでしょうか?」
アンネの心配に思わず吹き出して笑う。
「大丈夫だよアンネ。わざわざ魔界に人間を招くんだから、人間界と変わらぬ食事が出てくるよ。そもそも、そんなに食文化に違いはないしね。まあ、種族にもよるけど」
まあ、魔族の中には人間を捕食する種族もいるということはアンネには内緒だ。




