第5話:ちっ、スキル発動は運次第だと。
「じゃ~、ヒミコちゃん。よかったら、農耕地でも見に行かない?」
グリコールが立ち上がりながら、ヒミコに視線を送る。
((農作物がどうとか言ってたな、うんうん。ジャスミンさんが…))
「うんうん、ヒミコちゃん。ジャスミンさんじゃなくて、お姉ちゃんでいいよ。うふふ」
ジャスミンは、まるで可愛い妹を見るように微笑ましい笑顔。
「お、お、お、おね…え…ちゃ…ん。お、お…」
不意の提案に、思わず声が出ていた。
((クソっ、なんで声が…ちっ、迂闊だったぜ…))
「ヒミコちゃん、断末魔みたいに、お姉ちゃんって。でも、声を出して話すことが苦手なのに…なんだか、お姉ちゃん嬉しい」
((おっ、ジャスミン…お姉ちゃん?は、もう姉気取りなんだな。ふぉっふぉっふぉっ。あっ、いや、姉気取りって、うん、失礼な物言いか…うぅ、ごめん))
ジャスミンは、楽しそうな笑顔。
「うっふふ、確かに姉気取りだね。でも、妹みたいに思えるのはホントだよ」
((うん、わ、わたしも…う、嬉しい。お、お姉ちゃん))
「ヒミコちゃんは、念話でも上手にお話できなくなってるよ。恥ずかしくなっちゃったのかな?」
((あっ、わ、わたしとしたことが。なんたる失態。今にも、この場を飛び出したい気分だぜ…))
「恥ずかしがるヒミコちゃんも可愛いらしいね。うふふ」
グリコールを先頭に、ジャスミン、ヒミコの順で部屋を出た。
外に出ると、かつてのハイテク?高度文明?の名残が点在している。
金属の残骸や、崩れかけた石造りの建物が無数にあり、スキル戦争の凄惨さを物語っているようだ。
((ちっ、終末世界なんてもんじゃないな、これ))
しばらく歩くと、かなり荒れた果てた土地の中に、ぽつりと柵で仕切られた場所が見えてきた。
((あれか、農耕地…クソ、なにも育たなそうだな…))
育ちの悪い作物が、申し訳なさそうに並んでいた。
ジャスミンが作物に指をさしながら、口惜しそうな表情をしている。
「土が悪いのか…肥料がダメなのか…わからなくて」
「ジャスミンは、他の仲間と協力して頑張ってくれているんだけどね。ヒミコちゃん、スキルでどうにかできそうかな?」
((ふむふむ…土は、根が伸びる場所で、水分と養分を植物に渡す土台になる。そのための条件としては、通気性、排水性、保水性、保肥性が全て揃わないとだな…水も適量じゃないと、肥料の意味がないし。肥料は、窒素、リン酸、カリウム、が重要になってくる。とりあえず、トゲトゲモヒカン野郎たちが、農作物を育てるのに適したスキルを持ってるのか確認しないとだな…))
グリコール、ジャスミン共に、とても感心した眼差しでヒミコを見つめている。
「さすが、わたしの妹!」
「いや~、ヒミコちゃん、スキルだけじゃなく、頭脳も明晰なんだね」
((お、おぅ、まぁな…惑星5位だしな、うん、当然だな。ふっ))
「ヒミコちゃんって、スキリオンで5位の天才ってこと!?お姉ちゃんも鼻が高いよ」
「ヒミコちゃん、本当にすごいよ。おじさん感動しちゃった」
((あ、いや、スキリオンではなくて…アースグリムってとこなんだけど…あっ、グリコールっておっさんなのか、ふぉっふぉっふぉっ))
グリコールとジャスミンは、不思議そうに顔を見合わせている。
「アースグリムって、どの辺にある国なのかな?わたし、聞いたことがないかも…」
「ははは、そうそう、わたし38歳だから、もうおじさんだよ」
((グリコールはおっさんと…あぁ~、なんだろ、国じゃなくて、他の惑星。つまり、スキリオン出身ではないってことだな))
グリコールもジャスミンも、意味がわからないようで困惑している。
「えっと、お姉ちゃん意味がわからないな…惑星間移動ってことだよね?」
((ちっ、失敗した。クソ、言うんじゃなかった))
「うん、えっと、お姉ちゃん聞かなかったことにするよ…うん」
「ヒミコちゃん、わたしも聞かなかったし、口外はしないから、安心して」
((あっ、お気遣いいただきありがとうございます))
《別に隠すようなことでもないと思いつつ》2人の言葉を、とりあえず飲み込むことに決めた。
((とりあえず、スキルでも確認して、農業に使えそうなもの探すか))
グリコールとジャスミンは、大きく頷いて、柵に寄りかかり静観している。
((スキル確認))
目の前にウィンドウが表示。
頭を上下左右に動かしながら、スキルを確認する。
((クソ、ホントめんどくせ~な。UI悪すぎんだろっ、おっさんの野郎))
黙っていたグリコールが、悲しそうな表情を浮かべた。
「ごめん、ヒミコちゃん、わたし何か気に障ることでもしちゃったかな…」
((あっ、いや、おっさん違いだから…勘違いさせて、ごめん))
グリコールは、少しホッとした顔をしている。
《わたしって、そんなに怖いのかな》と心の中で呟いた。
『ピコーン』と通知音のような音が鳴り、
『スキルレベルがアップしました』と機械的な音声が流れる。
《はいはい、レベルアップね。いまいち、条件がよくわからないやつな》
と、思いつつも少し期待していた。
『操作性の拡張機能を利用できます。利用しますか?』
《利用》と思考。
すると、『ウィンドウをジェスチャーで操作できるようになりました』と音声が流れた。
((ジェスチャーで操作ね…))
試しに、ウィンドウを上下左右に指で動かしてみると、なんと思い通りに。
頭を上下左右に動かしストレスから、ようやく解放された。
((いいね、こいつは、いいぜ~))
ウィンドウに表示されたスキルを一つ一つ確認しながら、農業関連のものを探していく。
その中から『肥料』と書かれたものを見つけ、スキル名の横にある『詳細』を押してみた。
スキル名:肥料
詳細:有機物を植物の成長に欠かせない肥料にする。
発動条件:有機物をまとめて『肥料』と唱える。
※有機物によって、有効な肥料になるか、使えない肥料になるのかは、あなたの運次第。
((はぁ?運…次第だと。クソ、あのおっさん…今度会ったら絶対に許さんぞ))
柵に寄りかかり、様子を見ていたジャスミンが近づいてきた。
「ヒミコちゃん、どう?使えそうなスキルあった?」
((えっと、肥料かな。お、お、お姉ちゃん))
「肥料ね、うんうん。農作物がよく育ちそう」
ジャスミンの喜んでいる表情を見た、グリコールも側にやってきた。
「ジャスミン、嬉しそうだね。ヒミコちゃんのスキルで農業関連のものあったのかな?」
「ねっ、ヒミコちゃん」
ジャスミンが嬉しそうにウインクをする。
((あっ、うん、肥料が使えそう))
「なるほど、肥料か。うんうん、肥料も原料混ぜ合わせたり、発酵させたり、時間も手間もかかることを考えれば、スキルで作れるなら素晴らしいね」
「でしょ、グリコール様」
((様って、柄じゃないよな~、グリコールって))
「あははは、確かに、様って柄じゃないよね、わたしは。うんうん」
「うふふ、実はわたしも、そう思っていました」
((相思相愛だな))
「ヒミコちゃん、意味は違うけど、ニュアンスは伝わってきたよ、うふふ」
「あはは、ヒミコちゃんは、本当に面白いな」
農耕地にこだまする笑い声。
ほのぼのした空気が辺りを包み込んでいるようだった。
《なんだろ、おばあちゃんを思い出すな…》懐かしいような、忘れていたような気持ちが、ほんの少しだけ胸を温かくしてくれる。
《ここなら、楽しく生きていけるかも》そんな風に考えれるようになっていた。




