第6話:クソ、賑やかになってんじゃね~よ。
((それなら、まずは肥料を作ってみるか。う~ん、有機物…あっ、その前に、ここって何を栽培してるんだ?))
ジャスミンが、ハッとした顔でヒミコに視線を送る。
「ヒミコちゃん、ここでは、トマートン、キャベーツン、ブッコロリーンとか、そのままで食べれたり、調理が簡単だったりするものを中心に栽培しているよ」
((あっ、う~ん、トマートン?キャベーツン?ブッコロリーン?って…))
「あっ、そっか、うん、そうだね。ヒミコちゃん知らないかもしれないものね。トマートンは赤い実でそのままでも食べられるよ。キャベーツンは葉が重なって丸くなる野菜ね。ブッコロリーンは、一見すると樹木みたい見える野菜なんだよ。これで、なんとなくでも、イメージできるかな?」
((ふむふむ…トマートンは赤い実か、トゥルメクみたいなもんかな。キャベーツンは、葉が重なる野菜だから、キャラッセオと同じかもな。ブッコロリーンは、樹木のような見た目だと、カリーンフラーンと似てるのかな。固有名称が違うってのは驚きだな。クソ、言語翻訳とか言語理解って、その辺は変換されね~のかよっ。ったく、あの野郎、役立たね~な。ちっ))
少し心配顔のジャスミンが、ヒミコに近づき肩を優しく抱き寄せた。
「色々と勝手が違うことも多いと思うけど、わたし全力でサポートするから、何でも言ってね。お姉ちゃんなんだから、たくさん頼ってよ、ヒミコちゃん」
《ジャスミン、ホントにいい人》荒れ果てた大地に降り注ぐ、恵みの雨のような、《クソ、嬉しいじゃね~か》ジャスミンの優しさを感じた。
((あ、うん、頼りにしてるぜ、お、お姉ちゃんジャスミン))
まだまだ、素直に感情を出すことは難しいけど…
《ちっ、心開きかけてんじゃね~よ…でも、ジャスミンなら…》もしかしたら、開ける日がくるのかも。
((栽培してるものを考えると、有機物は…う~ん、あれか。窒素含有量多めで、バランスも悪くないな。あとは、落ち葉か。))
ジャスミンは、顎に手を当てながら考え込むような仕草をしている。
「ヒミコちゃん、あれって…なんだろ?」
((あれってのは、鶏の排泄物。わかりやすく言えば…))
ジャスミンは、ヒミコの口に人差し指をそっと当てる。
《お姉ちゃん的には、NGワードなんだな》それ以上は言わなくてもいい、
いや、それ以上は言わせたくないようだった。
グリコールが、ジャスミンに手を上げて合図を送り、その場を離れる。
((グリコール38歳は、どこ行ったんだ?))
「うん、グリコールが様。違うな、グリコールさんは、ヒミコちゃんが必要なあれを取りに行ったんだよ」
((ちっ、やるじゃね~か、グリコール38歳。))
「うんうん、グリコールさんも、とっても仲間想いのいい人なんだよ」
((クソ、薄々感づいていたけど…いい奴だったか、グリコール38歳め))
「悪そうな人なら、わたしも補佐官として、ここには留まってないかな」
((だろうな、悪そうな奴…お、お姉ちゃんに、危害を加える奴は、わたしが干物にしてやる))
「ありがとう、ヒミコちゃん。その気持ちだけで、お姉ちゃん嬉しいよ」
ジャスミンは、ヒミコを優しく抱きしめる。
《なんだろ…こんなの久しぶりだな~》もし、お姉ちゃんが居たとしたら、
こんな感じだったの?
《わたしらしくないかな?わたしらしいって…なに?》
でも、素直に甘えたい気持ちも同時にあった。
ゴロゴロゴロ——
乾いた土を噛み、荒地を蹴るような音が響く。
ジャスミンと顔を見合わせ、音のする方へ視線を投げた。
グリコールとモヒカントゲトゲ野郎が、車輪のついた荷台を引っ張りながら近づいてくる。
((まだいるんだ、モヒカントゲトゲ野郎…))
「男子って、好きだよね。強そうな見た目の感じかな。うふふ」
「ヒミコちゃん、お待たせ。例のあれを持ってきたよ」
汗だくのグリコールとモヒカントゲトゲ野郎。
「ういっす」
モヒカントゲトゲ野郎は、小さく手を挙げた。
((ちっ、やるじゃね~か、グリコール38歳。あと、トゲモヒ))
「ヒミコちゃん、わたしの名前をちゃんと覚えてくれたのは嬉しいけど、名前と年齢はセットにしないで欲しいな。もし、よければだけどね。あはは」
((あっ、うん、わかった。グリコール3…グリコール))
「あはは、今言いかけたね。38歳を」
ジャスミンもグリコールも、お腹を抱えて笑っている。
その横で、モヒカントゲトゲ野郎は、状況が見えずキョトンとしていた。
「ヒミコちゃん、よかったら、イーマンにも契約してくれるかな?」
((イーマン?誰?))
グリコールは、モヒカントゲトゲ野郎の肩をポンポンと軽く叩いた。
((そいつがイーマンか、トゲモヒ5号。契約))
モヒカントゲトゲ野郎改めイーマンの頭上に『ヤマダヒミコ』と表示。
((トゲモヒ5号の契約完了だぜ、グリコール3…))
イーマンは、目を見開き驚きを隠せなかった。
「すっげ、すっげ~す。頭の中に声が聞こえるっす」
((あぁ~、こいつあれな感じだな。トゲモヒ5号))
「トゲモヒ?5号?って、おいらのことっすか?」
((ちっ、お前以外に誰がいるんだよ))
「うひゃ、うひゃ、そ~っすね。おいらしかいね~っすね。うひゃ、うひゃ」
((クソ、笑い方独特過ぎんだろ))
「グリコールさまにきいていたとおり、口わるいっすね~。ヒミコ姐さん」
「イーマンには、あれを運んでいる途中に、ヒミコちゃんの事前情報を共有しておいたんだ。コミュニケーションは円滑にしないとだからね」
((ふ~ん、やり手だなグリコール))
「うひゃ、うひゃ、姐さん。おいらもちからになるっす」
((ふ、不安しかない…))
「うふふ、ヒミコちゃん、イーマンは素直で働き者なんだよ。物覚えとかはね…うん、少しね…あれなところはあるけど。でも、大丈夫」
「おいらもやくにたちたいっす」
「イーマンもこう言ってるからさ、不安がらずに色々教えてあげてくれるとありがたいな、ヒミコちゃん」
((ちっ、ジャスミンとグリコールが、そこまで言うなら…わかった))
「うひゃ、うひゃ、姐さん。あざっす」
なぜか、飛び跳ねながら喜ぶイーマン。
((すごいな5号。クソ、感心しちまったぜ))
「姐さん、姐さん。あれ、とりのうん…」
グリコールが慌てて、イーマンの口を手で塞いだ。
「グリコール様、なんすっか?とりのう…」
また、グリコールに口を塞がれるイーマン。
「イーマン、鶏の排泄物だね」
「あちゃ~、おいらのいいかたがわるかったっすね。すんません」
((イーマン…クソっ、キャラが立ってやがる))
「キャラがたつって、なんすっか姐さん?」
((ちっ、不覚。クソ、反応するんじゃなかったぜ。つい、面白すぎて…くっ、なんたる失態。かくなる上は、腹を切るしかない))
ジャスミンが、慌ててヒミコを抱きしめる。
「ヒミコちゃん、お腹切ったらダメよ。お姉ちゃんが許さないから」
「ジャスミンさん、姐さんの姉ちゃんなんすか?おいら、よくわからね~すっけど、ふくざつなじじょうってやつがあるんすね~」
((お前の頭の中が複雑だわ。ふぉっふぉっふぉっ))
「おいらのあたまふくざつなんすね~。ほめられてんのかな。なんだかうれしいっす」
((お姉ちゃん、勢いで言っただけ…ごめん…ね…なさい。5号は褒めてね~よ、ちっ))
「うんうん、わかってるよ、ヒミコちゃん」
ジャスミンの抱きしめる腕に少しだけ力が入る。
「おいら、ほめられてね~っすか。あちゃ~、ざんねんっす」
「ははは、なんだかヒミコちゃんのお陰で、賑やかになってきたな」
グリコールは目を細める。
《ちっ、賑やかって…悪くないじゃね~か》
荒れ果てた終末世界に、笑い声が響いていた。




