第3話:ちっ、グリコーゲン、いや、グリコールか。
((あっ、そうだ、いちおうゲロとかジローの人形も持ってくか))
一旦、三眼の魔獣に戻り、シートに置いたゲル、ジル、クリオ、チモシの人形(状態異常:干物)4体を手に取り、再び奥の建造物に向かって歩き始めた。
建造物の入口には、特に守衛は立っていない。
((ふ~ん、グレゴリーって奴、危機感とかないんだな))
入口は、ボロボロの板を組み合わせたような扉。
((なにこれ、クソボロいな。ふぉっふぉっふぉっ))
ギ、ギーッ、と建てつけが悪い感じの音が鳴り扉が開く。
((建付けも悪いのかよ、クソすぎんだろ))
室内は、比較的広いエントランスのような造りになっている。
((けっこう広いな、20畳くらいあるのかな))
奥には2階へと続く階段、左右に扉が2つずつ。
((誰もいない、う~ん、どうしようかな))
少し周囲を見渡しながら考えを巡らせる。
((グリ、グリなんとかって奴、きっと上にいるな。バカと煙は高いところに上るって言うしな))
2階へ続く階段へ向かって歩き出す。
((じゃ~、行ってみるか))
ミシッ、ミシッ、ミシッ、と階段を上るたびに音が鳴る。
((大丈夫かよ、この階段。壊れたらクソすぎる))
2階へと辿り着き、周囲を確認する。
階段を上がった先には、1階より少し狭いエントランス。
奥と左右に扉が1つずつ。
((とりあえず、奥の扉かな))
最奥の扉をギギィと開けると、さらに3階へと続く階段。
((この扉意味ね~だろ、クソが))
文句を言いながら、ミチッ、ミチッ、と階段を再び上る。
3階へと到着し、辺りを確認。
((2階より狭いけど、構造は同じか))
奥の扉に向かって歩く。
((まさか、また階段じゃね~だろうな。階段だったら、あの野郎ただじゃおかね~))
これまでと同じく、建てつけの悪い音がするボロボロの扉をギィと開ける。
((ちっ、クソがっ!絶対に許さんぞっ!))
開けた扉の先には、案の定階段が続いていた。
((クソ、クソ、クソ。どこまで上がればいいんだよ))
ブツブツ心の中で文句を呟きながら階段を進む。
((4階も、間取りは同じか~っ!))
早歩きで奥の扉を壊れそうな勢いでバンッと開けた。
その先には、少し小太りでモヒカンもトゲトゲもない男が床に座っている。
「えっ、えっ、えっ、誰?誰ですか?」
小太りの男は、思いの外おどおどしていた。
「ど、ど、ど、どうも。あっ、あの、その、こ、子分?の方、です…かね。
そ、そ、その、ひ、干物に、えっと、なって…しまった…です」
((こいつ、小心者だな。クソが))
小太りの男は、少し涙目になりながら、ゆっくりと立ち上がった。
「あの、すいません。子分って、あの~、誰のことでしょうか?」
「あ、えっと、ゲ、ゲロとか、べ、ベロとかって人…なん…ですけど」
((こいつ、グレネードじゃないのか?))
小太りの男は、天井を見上げながら考えを巡らせているように見える。
「あっ、もしかして、ゲルとジル兄弟のことでしょうか?」
「あっ、た、た、たぶん、きっと、そ、そうか…もです」
((確か、兄弟って言ってたな))
「それで、干物というのは何のことでしょうか?」
「え、えっ、えっと、そ、その、スキルで、な、なんて…いうか、ま、ま、間違いが…起きて、です」
「なるほどですね~。貴女様のスキルが間違って発動して、ゲルとジル兄弟が干物になってしまったということでしょうか?」
「あっ、は、はい、そ…です」
((こいつ、物分かりがいいな))
小太りの男は、突然ハッとした顔をした。
「名乗るのが遅くなり、大変申し訳ございません。わたくし、この辺を管理と言いますか、仕切らせていただいていると言いますか、そのようなニュアンスなんですけども、決して領主とかではないという感じなんです。はい~。
それで、名前がですね、グリコール・マグナスと申します、以後お見知りおきを」
「あ、あう、ご、ご、ご丁寧に、あ、あ、ありがとう…ございます。わ、わ、わたしは、ヤ、ヤマダ…ヒミコです。よ、よ、よろしく、お、お願い…しますです」
((ちっ、やっぱり、こいつだったな。グリコーゲン))
手に持っていた4体の人形をグリコールに見せた。
「なるほどですね。これが干物になっているというわけですか。ふむ、ふむ、ヤマダヒミコ様は、興味深いスキルをお持ちですね。干物スキルなんて初めてお伺いしましたよ」
「そ、そ、そうなん…です…か」
((なんだこいつ、わたしのスキルを狙ってやがるのか。油断ならない奴だぜ))
グリコールは4体の人形を隅々まで確認している。
「これは、ジル、ゲル、クリオ、チモシの4人の特徴と一致していますね。もしかして、ヤマダヒミコ様に対して、失礼なことをしたのではないですか?」
「あ、い、いや、だ、だ、大丈夫…です」
((そう言えば、あいつら失礼なことしてやがったな。腕痛かったし、クソっ。思い出したら腹立ってきた))
「そうですか、それならばよかったです」
「は、はい、そ、そうですね」
((クソっ、話すのめんどくせ~な。どうにかなんね~のかよっ))
グリコールは部屋の奥から廃材で作ったような、お世辞にも綺麗とは言えないような椅子を2脚持ってきて、向かい合わせに並べた。
「ヤマダヒミコ様、立ち話もなんですから、お座りください」
「ど、ど、どうも。お、お、お気…遣い、あり…がとう、ご、ござい…ます」
グリコールの用意してくれた椅子に座ると、向かい側の椅子にグリコールも腰を下ろした。
((こんなに声出したの久しぶりすぎて、喉が痛くなってきたぜ。クソが。なんか、話さなくてもいい方法ないのかよ。う~ん、スキル))
所有スキル一覧を確認する。
((これだっ!契約!))
グリコールの頭上に『ヤマダヒミコ』と表示された。
「ヤマダヒミコ様、もしやスキルを使用されましたか?」
「ご、ご、ごめん…なさい。か、勝手に、ス、ス、スキル、使って…しまい…ま、ました」
((ちっ、迂闊だったぜ。スキルは使用すると相手に伝わるんだな。次からは気を付けるか。ふんっ))
「ヤマダヒミコ様、驚きました。これは、念話ですね。心の中の声が、わたしに全て伝わってきています」
((えっ、あっ、いや~、恥ずかしい。クソ。なんなんだ))
「ヤマダヒミコ様、感情がグチャグチャになっておりますね」
((お、おぅ、感情なんてクソくらえだぜ。あと、呼び方はヒミコでいいぜ。グレゴリーさん))
「ヒミコ様、わたしはグリコールです。ふふふ、面白い方ですね」
((ごめん、グリコールさん。あと、様とか要らね~から。ヒミコでいいぜ))
「可愛らしいお嬢さんを呼び捨てというのもね、なにか味気ないといいますか、寂しいものがありますよね。ですので、ヒミコちゃんとお呼びしましょうか。いかがですか?」
((おぅ、いいぜ。ヒミコちゃん?えっ、なに、なに、ちゃん付けとか。クソ、なんてことだ。しかも、可愛らしいだと。おばあちゃんにしか言われたことがないぜ))
「口は悪い、いや、心の声かな?言葉は悪いですが、紛れもなくヒミコちゃんは、可愛らしいお嬢さんですよ」
((あ、どうも、ありがとうございます))
「本当は素直でいい娘さんなんじゃないですか?」
((う~ん、どうだろうな。おばあちゃん以外と普通に話したことないから、よくわかんないな))
「もしかしたら、何か原因があるのかもしれませんね」
((そうなのかな~?でも、契約すれば声出さなくても大丈夫そうだし))
「まぁ、そうですが、むやみに契約して、その相手が悪巧みを考えているような者であれば、ヒミコちゃんに危険が及ぶ可能性もあるということは、頭の片隅にでも置いておいてくださいね」
((うん、ありがとうございます。グリコール?さん))
「わたしのこともグリコールで大丈夫ですよ。さん付けしなくてもいいですからね」
((わかった、グリコーゲン。ごめん、グリコール))
「はい、それで大丈夫です」
声を出さずとも話ができるのは、とても心地がよかった。
相手の了承も得ずにスキルを実行してしまったのは大いに反省すべき点である。
しかし、この世界にきて初めてスキルの恩恵を受けた瞬間でもあった。




