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Witch Squadron  作者: Se-34gu-0
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FILE 008

FILE 008「月明かりの招待状」


食堂を出ると、ひんやりとした夜風が3人の火照った頬を撫でた。


見上げれば、雲の隙間から細い月が顔を覗かせ、静まり返った魔女たちの宿舎を白く照らしている。


「ふぅ……食べた食べた。やっぱり訓練の後の飯は最高ね」バレリアが両手を頭の後ろで組み、大きな伸びをしながら歩く。


その少し後ろを、ミナとイズモは歩幅を合わせるようにして並んで歩いていた。ミナはあの「ゴーグルの魔女」として一目置かれる存在だが、普段は無口で、周囲との距離感が掴めずにいる。


(楽しかった……な)


ミナは自分の手のひらをそっと見つめた。いつもなら、任務が終われば一人で部屋にこもり、ただ泥のように眠るだけ。


けれど今は、隣を歩くイズモの小さな足音や、前を行くバレリアの背中がある。それだけで、冷たい夜道がいつもより短く感じられた。


宿舎の廊下に辿り着き、それぞれの部屋へと分かれる分岐点に差し掛かる。楽しい時間は終わり。


ここからはまた、いつもの一人の夜が始まる。ミナが少しだけ名残惜しさを覚えながら、「それでは、私はこれで……」と声をかけようとした、その時だった。バレリアが、ぴたりと足を止めて振り返った。


その口元には、何か悪巧みを思いついた時のような、不敵な笑みが浮かんでいる。


「ねえ、ミナ。今夜消灯後に、部屋に集まらない?」


「え……?」ミナは、自分が聞き間違いをしたのかと思って、思わずパチパチと瞬きをした。


隣にいたイズモに視線をやると、彼女もまた、信じられないものを見たかのように目を丸くしている。


「ええっ!? バ、バレリアさん、急に何を言い出すんですか……!」イズモの声が、驚きのあまり少し裏返った。


「消灯後って……そんなの、完全に規則違反じゃないですか! ミナ先輩にそんな不届きなお願いするなんて、見つかったらまた懲罰房で――」


「声が大きいわよ、イズモ」バレリアは楽しげに人差し指を唇に当てて、にやりと笑う。「お堅いこと言わないの。


明日の任務の『作戦会議』ってことにすれば、大目に見てもらえるって。


「ほら、これもあるし」そう言ってバレリアがポケットから取り出したのは、包み紙に包まれたいくつかの焼き菓子だった。


おそらく、先ほどの食堂でこっそり見つからないようにくすねてきたものだろう。


「き、規則違反じゃ……」ミナはオドオドしながら、二人の顔を交互に見つめた。ルールは守るべきだ。


ずっとそう教えられてきたし、自分から進んで破ったことなんて一度もない。


けれど、胸の奥が、トクトクと不規則な高鳴りを上げている。


「ミナの部屋、一番端っこでしょ? 巡回も見回りに来づらい場所だし、あそこに決まり」


「えっ、私の部屋ですか!?」


「決定。じゃあ、消灯の鐘が鳴ってから10分後ね。遅れないようにしなさいよ、イズモ」


「うう……私、もう知りませんからね……!?」イズモは真っ赤になって頭を抱えているが、拒否する様子はなさそうだった。


バレリアは「じゃ、後でね」と片目を瞑ってみせると、軽い足取りで自分の部屋へと歩いていってしまった。残されたミナとイズモは、しばらく廊下で立ち尽くしていた。


「……ミナ先輩」


「はい」


「……お邪魔しても、いいですか?」気恥ずかしそうに、上目遣いで尋ねてくるイズモ。


「あ、はい……。汚い部屋ですけど……」ミナがそう答えると、イズモは

「じゃあ、後ほど」と小さく手を振って、自分の部屋へと戻っていった。


一人、自分の部屋に戻ったミナは、心臓の音がうるさいくらいに鳴り響いているのを感じていた。


急いでベッドの上を整え、机の上の書類を片付ける。「仲間が部屋にやってくる」そんな経験、これまでの人生で一度もなかった。やがて、宿舎全体に消灯を告げる重々しい鐘の音が響き渡った。


バチ、バチ、と廊下の魔導灯が消えていき、世界が深い闇と静寂に包まれる。


じっとベッドの端に腰掛け、毛布を握りしめて待つ。本当に来るのだろうか。やっぱり冗談だったりしないだろうか。




――コン、コン。


静寂を破る、爪で突いたような小さなノックの音。ミナは跳ね起きるようにしてドアへ向かい、そっと鍵を開けた。


「よっ、お邪魔しまーす」滑り込んできたのは、やはりバレリアだった。


その後ろから、ネグリジェの上から急いでローブを羽織ったイズモが、緊張で顔を真っ赤にしながら、周囲をキョロキョロと警戒して滑り込んでくる。


「本当に来た……」


「当たり前でしょ、言い出しっぺんだから」バレリアは遠慮なくミナのベッドにどさりと腰掛け、持ってきた焼き菓子を中央に広げた。


イズモは「し、失礼します……!」と、まだ少し緊張した様子で、床に敷いたクッションに背筋を伸ばしてちょこんと座る。


小さな魔導灯の明かりだけが、狭い部屋を薄暗く照らしている。


昼間の食堂の賑やかさとは違う、息を潜めるような、けれどどこか特別で、甘やかな空気が満ちていく。


「さあ、作戦会議(女子会)を始めましょ?」バレリアがサクサクとしたクッキーを口に放り込み、悪戯っぽく微笑む。


「で? 何から話す? せっかくの作戦会議だもん。まずは、お互いの『第一印象』ってやつから白状し合わない?」


「だ、第一印象ですか!?」イズモが小さく声を上げ、慌てて両手で口を塞いだ。「面白そうじゃない、ねえ、ミナ。アンタ、私のこと最初どう思ってた?」先輩後輩の壁を感じさせないフランクな問いかけに、ミナは持っていた焼き菓子を落としそうになった。


「えっと……バレリアさんは……」記憶を遡る。初めてバレリアを見たのは、訓練場の裏手だった。


「……すごく、怖かったです。堂々としていて」


「ぶっ、直球ねぇ!」バレリアが声を殺して吹き出す。


「声が大きくて、いつも怒っているみたいで……。私、先輩らしいことなんて何もできないから、近づいたら呆れられるんじゃないかって、ずっと思っていました」


「あはは、間違ってないわ。私、せっかちだから。あ!でも、ミナのこと怒ったりしてないわよ? むしろ『あの有名なゴーグルの魔女が、なんであんなにお人形みたいに隅っこにいるんだろ』って思ってた」


「お、お人形……?」


「そう。いつも無表情で、じっとしてるから。何を考えてるか分からなくて、ちょっと不気味……じゃなくて、神秘的?ってやつ?」バレリアのからかうような視線に、ミナはきゅっと肩をすぼめた。


自分の知らないところで、そんな風に見られていたなんて思いもしなかった。


「じゃあ、イズモは? ミナ先輩のこと、最初どう思ってたの?」バレリアに促され、イズモがびくりと背筋を伸ばす。


「え、ええと……私は、その……」イズモはもじもじしながら、上目遣いでミナを見た。その頬が、また少し赤く染まっていく。


「……すごく、綺麗で、圧倒的に格好いい人だって思っていました」


「えっ」今度はミナが驚く番だった。


「私、魔力のコントロールも下手だし、いつも失敗ばかりで……格好いいところなんて、ひとつも……」


「そんなことないです!」イズモが、思わずといった風に身を乗り出す。


「実戦の時のミナ先輩、あのゴーグルを直す仕草とか、すごく凛としていて……! 周りが何を言っても流されないじゃないですか。私、すぐに周りの目を気にしてオドオドしちゃうから……。いつも一人で孤高に立っている先輩が、すごく、その……素敵に見えて。だから、ずっとお話ししてみたかったんです」一気に喋り終えたイズモは、恥ずかしさに耐えかねたように、ローブの袖で顔を隠してしまった。


ミナの胸の奥が、トクン、と温かい音を立てた。


一人でいたのは、ただ怖くて輪に入れなかっただけ。凛としていたわけでも、格好良かったわけでもない。


けれど、そんな自分の姿を「素敵だ」と言って、ずっと憧れの目を向けてくれていた仲間がいた。


「なんだ、イズモ。アンタ、ただの熱狂的なファンだったわけ?」バレリアがニヤニヤしながらイズモの肩を突く。


「う、うるさいです、バレリアさん! そう言うバレリアさんこそ、ミナ先輩のこと気にして、わざわざ今日の食堂でも席に誘ったじゃない!」


「は? 私はただ、気になるなーって思っただけよ」二人の言い合いを見ながら、ミナはそっと微笑んだ。


窓の外では冷たい夜風が吹いているけれど、この狭い部屋の中だけは、まるで春が来たように温かい。


「……ありがとうございます」ミナの小さな呟きに、二人の視線が止まる。


「私……お二人と、こうしてお話しできて、すごく嬉しいです」心の底からの言葉だった。先輩という立場も取り払った、真っ直ぐな言葉。


それを聞いたバレリアは一瞬だけ呆気に取られたような顔をし、それから「……調子狂うわね、ミナは」と、少し照れくさそうに頭を掻いた。


イズモは嬉しそうに目を潤ませて、コクコクと何度も頷いている。


小さな部屋に、また静かな笑い声が満ちていく。


3人の距離は、月明かりに照らされた焼き菓子のように、甘く、確かに縮まっていた。

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