FILE 006
Witch Squadron FILE 006『じゃじゃ馬と翻訳者』
統合作戦技術開発局。世界で唯一、魔女の飛行運用を試験的に行っているこの格納庫に、新たな少女が配属された。
中央から「近接格闘戦の適性が異常に高い」という触れ込みで送り込まれてきた、試験運用二人目の魔女。
名を、バレリア・スイートハートという。
しかし、彼女の着任早々、格納庫は最悪の空気に包まれていた。
「――話にならない。この『箒』、とろすぎて私の動きについてこれないわ」
ツインテールの赤髪を揺らし、バレリアは支給されたばかりの軽量格闘型ユニットを睨みつけていた。
床には、彼女が「合わない」と叩きつけた調整データが散乱している。
若い整備員が、青筋を立ててデータを拾い集める。
「数値上は、君の反応速度に完璧に追従するように極限まで軽量化してある! 暴れて機体を壊しかけたのは君のほうだろ!」
「うるさい。データ、データって、お前たちは数字しか見ないのね」バレリアはフンと鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
まだ試験運用段階の、前例のないプロジェクト。
お互いの信頼関係など、最初から無いに等しかった。
誰もが匙を投げかけた、その時だった。
「あ、あの……」格納庫の隅から、いつものようにオドオドとした声が響く。
イズモだった。
彼女は床に落ちたバレリアの飛行ログを、一枚一枚、大切そうに集めていた。
バレリアが冷ややかな視線を向ける。
「何よ、その貧弱そうな補助員は」
「ひっ……!」イズモはびくりと身をすくめた。
だが、手元のログに目を落とした瞬間、彼女のオタク気質な瞳に、小さな火が灯る。
「あの……バレリアさん。あなた、わざと暴れてるんじゃなくて……息が、苦しいんですよね?」
「……は?」バレリアの眉が、ピクリと跳ねた。
イズモは、バレリアの威圧感に震えながらも、必死に言葉を紡ぐ。
「バレリアさんの出身……東方の高地ですよね。あの土地には、呼吸を魔力に変えて、爆発的な機動力と身体力を生み出す『息吹系』の古い古い系統があります……」
「……っ」
「今のこの機体、軽量化のために魔力流路を限界まで『細く』してあります。だから、バレリアさんが『息吹』を入れた瞬間、流路が詰まって、肺が押し潰されるような感覚負荷がかかっているはずです。あなたが機体を振り回したのは……その苦しさから逃れるための、防衛本能です……!」
格納庫が、水を打ったように静まり返る。バレリアは目を見開いたまま、固まっていた。
中央の大人たちが「気性が荒く、操縦が雑なじゃじゃ馬」と切り捨てた自分の飛び方。
その奥にある、自分でも言語化できなかった「苦しさ」を目の前の、頼りない黒髪の少女が一瞬で見抜いたのだ。
バレリアの拳の震えが、止まる。
「……あんた、何者よ」
「わ、私は、補助解析担当の……イズモ、です……」イズモは真っ赤になって俯いた。
その背後から、工具箱を担いだ整備長が、ニヤリと笑って歩み出る。
「聞いたか、若いの?流路が細すぎて、お嬢ちゃんの肺が悲鳴を上げてるそうだ」若い整備員が、ハッとしたように頭を抱える。
「クソ……! 軽さばかりに目を奪われて、魔力の『吸気量』を計算に入れてなかった……!」整備長はバレリアの機体にドカリと手を置いた。
「おい、スイートハートのお嬢ちゃん。流路を今の10倍に広げてやる。お前さんの『息吹』、全部読み込める大口径のバケモノにしてやるよ。……それなら、文句ねえな?」バレリアはしばらく呆然としていたが、やがて、ふっと不敵に笑った。
「……いいわ。そこまで言うなら、乗ってあげる」
そして、バレリアは恥ずかしそうに指先で金髪をいじりながら、イズモのほうをチラリと見つめた。
「……ありがと、イズモ。あんた、面白い目をしてるのね」
「へっ!? あ、は、はい……!」褒められ慣れていないイズモは、ゆでダコのように真っ赤になって硬直した。
その様子を遠くから見ていたミナが、クスクスと嬉しそうに笑っている。
後に。
この試験運用ユニットは、イズモの解析のもと「最大魔力吸気型・近接格闘仕様」へと改造されることになる。
それは、ミナの突撃型とは異なるアプローチ――敵の懐へ飛び込み、機動力で圧殺する「格闘担当」の、記念すべき最初の産声だった。




