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Witch Squadron  作者: Se-34gu-0
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FILE 004


「でも、今日は軽いんです!」


「軽い?」Witch Squadron FILE 004『整備員たちの声』


専用飛行装備開発計画の始動より、三ヶ月。


統合作戦技術開発局は、ようやく各魔女ごとの飛行特性を掴み始めていた。


……ほんの少しだけ、だが。


「七号機、今日は調子いいですねー!」格納庫の奥。


魔女の一人が、嬉しそうに専用装備を撫でていた。その横で、若い整備員が眉をひそめる。


「いや……昨日と設定は同じだぞ?」


「はい!」


少女は満面の笑みで頷いた。


「この子、今日は前に行きたがってます!」


若い整備員は遠い目をする。


「また始まった……」しかし。


背後から現れた整備長だけは、違った。


無言で専用装備を見上げる。


数秒の沈黙。


そして、静かに言った。


「……昨日より魔力流路が馴染んでるな」


若い整備員が勢いよく振り返る。


「え?」


整備長は無骨な手で装甲を軽く叩いた。


「出力の乗り方が柔らかい、今なら飛びやすいだろ」


魔女の少女はぱっと顔を明るくした。


「はい!」


若い整備員だけが、その輪から取り残される


「……なんで分かるんですか、整備長」


整備長は短く答えた。


「音だ」それだけだった。


だが、後日の飛行試験記録では、実際に七号機の出力安定率が向上していた。


若い整備員は、記録端末のグラフを見つめながら呟く。


「……マジかよ」


その頃には格納庫の空気そのものが、少しずつ、しかし確実に変わり始めていた。


「二号機、今日は機嫌悪いな」


「昨日無茶させすぎたんだろ、右側を怖がってるぞ」


「いや、これは風読みに集中しすぎてるだけだ。流路を開けてやれ」入ってきたばかりの新人整備員が、狂気を見るような目で頭を抱える。


「何なんですかこの職場……、みんな頭おかしくなったんですか……」だが、誰も笑わなかった。


むしろ全員が真剣だった。


なぜなら――それで実際に、飛行結果が変わるからだ。


ある日。


若い整備員は、一機の専用装備の整備を任された。


『イズモ専用試験機』まだ調整段階にある、軽量型の実験ユニットだ。


若い整備員は、徹夜でその機体と向き合い、整備を終えた。


数値、理論値、ともに完璧。


パーツのクリアランスに微細な誤差すらもない。


「よし……これなら完璧だ」


自信を持って送り出した、その日の試験飛行。


――だが。


イズモの乗った試験機は、離陸直後から不安定な挙動を起こした。


高度が伸びない。


旋回も、目に見えて鈍い。


着陸後。コックピットから降りてきたイズモは、申し訳なさそうに小さく俯いていた。


「ご、ごめんなさい……」


整備不備を疑い、血相を変えて駆け寄った若い整備員の前で、彼女は消え入りそうな声で呟いた。


「この子……少し、怖がってるみたいで……」


若い整備員は、思わず声を荒らげていた。


「だから、何なんですかそれ!」


格納庫が、一瞬で静まり返る。その剣幕に、イズモがびくりと肩を震わせた。しかし、若い整備員の言葉は止まらなかった。


「怖がるって何ですか!?」


「ただの機械でしょう!?」


「こっちは……こっちは徹夜して、完璧に整備してるんです!」


その時だった。


奥から、整備長が静かに歩み寄ってきた。


そして無言のまま、試験機の側面にそっと手を触れる。


数秒。張り詰めた沈黙が格納庫に満ちる。


やがて、整備長は小さく息を吐いた。


「……お前」


若い整備員が、肩を揺らして振り返る。


「……はい」


「推力調整の数値だけ、見てただろ」


「え……?」


「こいつ、視界が狭い」


若い整備員は固まった。


整備長は、機体前部の装甲を軽く叩く。


「前が詰まりすぎてるんだ、だから、空を怖がってる」


意味が分からなかった。


理論の欠片もない。


だが、イズモは救われたように、小さく深く頷いていた。


「は、はい……。たぶん、“前が見えない”感じで……」整備長は迷いなく工具箱を開いた。


「前部装甲、少し削るぞ」


「冗談でしょう!? 重量バランスが崩れます!」


「いいからやれ」再調整ののち、再び行われた試験飛行。


――イズモ機は、今度は驚くほど滑らかに空へと浮かび上がった。


若い整備員は、呆然と空を見上げるしかなかった。


「……なんでだ」整備長は胸ポケットから煙草を咥え、火をつけながら呟く。


「仲良くなれてねぇんだよ、まだ」


若い整備員には、やはりその言葉の意味が分からなかった。


だが目の前で綺麗に飛ぶ機体を見て、否定することだけは、どうしてもできなかった。


その日以降


若い整備員は整備の前、必ず機体に触れるようになった。


最初は半信半疑。


ただの八つ当たりに近い真似だった。


だが、何度も何度も、彼女たちの飛行を見続けるうちに。


少しずつ、本当に少しずつ、分かってしまうのだ。


今日は、軽い。


今日は、重い。


今日は……どこかを怖がっている。


そしてある日。


若い整備員は整備記録の備考欄へ、無意識にこう書き込んでいた。


『試験機、本日不機嫌』書いた直後、自分のペンが止まった。


――俺は今、なんて書いた?数秒の沈黙の後。


背後で、整備長が突然吹き出した。


「ははっ!」普段は仏頂面の男が、珍しく声を上げて笑っている。


「ようこそ、こっち側へ」若い整備員は、真っ赤になって頭を抱えた。


「……終わった。俺の理性が終わった……」その光景を遠くから見ていたイズモだけが、少し嬉しそうに、誇らしげに笑っていた。


後に。統合作戦技術開発局・整備部では、ある言葉が半ば冗談のように、しかし絶対のルールとして使われ始める。


――『まず機体と仲良くなれ』それはいつしか。


Witch Squadron整備部隊における、最初の心得となっていくのだった。

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